Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

3日目 宮城から来た大学生

午前4時頃、最高な感じで起床。

あたりはミストに包まれており、なんだか幻想的だ。

昨夜泊まった、江別フォレストホテル。シングルルーム、1泊400円。

テントを軽く朝日で乾かしてから荷造りをする。やはり、昨日沢山いた人達はほとんど日帰りで、朝になると自分含めてテントは3つしかなかった。

初めの頃は1時間くらいかけて、太陽の光を当てたりして、わざわざテントを乾かしていた。内地人のツーリングサイトで『濡れていると重量が増える』という半端な知識があったためだ。せいぜいコップ1杯程度の重量だろうから、本当はタオルとかでササっと拭いて荷造りしたほうが時間の節約になる。

このキャンプ場は少し芝生の草が長くて、朝方歩くと靴が濡れるのが難点だが、地面が適度な硬さなのでペグ(テントを固定するクイ)を使いやすい。

熊本のおじさんも起きていた。挨拶がてら少し話す。おじさんは登山もやっているそうだ。定番の質問として、どれくらいかけて北海道を周るのか聞いたら「何日かかるかわからない」と言う。おじさんにはやりたいことや目標があって、それを叶えるためなら時間なぞ関係ない・・・そういう旅なのだろう。浅い質問をしてしまったのように思えて、少し恥ずかしかった。

おじさんに見送って貰う。これから待っているであろう、厳しい旅を前にしているだけあって、お互いに真剣な表情で右手を上げる。7時に出発。

国道12号線を旭川方面に走る。途中、岩見沢で20歳くらいの女性が「旭川」と書いた紙を持ってヒッチハイクしていた。北海道みたいな、全国で5番目に人口の多い大都市がある都道府県でヒッチハイクを見るなんて珍しい。

冷やかしで話しかけようかと思った。しかし、後ろに今風な彼氏がいたので無視。女性だけだったらすぐ車が停まるだろうが、彼氏なんかいたら魅力激減だろう。車は滅多に停まらないないはずだ。

しかし、岩見沢~旭川なんて北海道では大都市圏なんだし、特急列車が沢山あるわけだから、こんなところでヒッチハイクするのはイマイチだろう。普通列車は3時間くらい空く時間帯があるから、青春18きっぷの旅で乗り逃したのか。沖縄だったら・・・「XXXさせてあげるから乗せて」というのもあるくらいなのに、タダ乗り希望とは世間知らずだ。

彼女らを通り過ぎて少し経つと、歩道をダラダラ走っている、サイドバック+荷物ボックス付きの自転車に乗った若いサイクリスト男性を追い越す。

彼は対向車線側にツーリングライダーが通るたびに手を上げて挨拶していた。私は危ないし、恥ずかしいし、なにより北海道が地元だけど、住んでいる時にそんな習慣は聞いたことがないから、したこともされたこともないんだけど、これが北海道では当たり前の光景なんです! すごいでしょ?・・・と紹介している内地人のサイトがある。

しばらく走ると、深川の道の駅へ。昨年は営業時間外で食べられなかったが、今年は炊きたての釜飯が食べられそう。10年くらい前に一度食べたが、とても美味しかったので、ぜひまた食べたいと思った。

この周辺では特に立派な道の駅なので、他の道の駅をスッとばすライダーやサイクリストでも、ここだけは立ち寄る人が多い。セブンイレブンが併設されているが、セイコーマートだともっといいな。というか、セイコーマートにセブンイレブンのマルチコピー機とWIFI設備があれば、セイコーマート以外のコンビニが北海道から全部撤退しても私はまったく構わない。むしろ、そうなって欲しい。

念願叶って、日替わりなんとか釜飯。深川産の炊き立ての米がとても美味しい。

薀蓄が書かれたボード。壁に1m置きくらいの間隔で貼られている

店員は一言も言ってくれないが、実は、Q&Aの一番下に大変重要なことが書かれている。ただの薀蓄ボードではない。

・2~3分蒸らしてから食べるべし
・蓋をしてないと米が乾くぞ
・温泉卵は釜に入れろ

ということを何にも知らず、家に帰って来て写真整理していた時に初めて知ってポカーンとする。

疲れていて、じっくり読む気なんかしなかったもんなぁ。真ん前に貼ってなかったし。まぁ、それでも十分美味しかったからいいやと思う。牛丼が300円くらいの世の中で、これは千円以上する料理なのだから、一言教えてくれても良かったのになぁ、と思う。

道の駅の店だから、お役所的で一般の民間企業とは違うのかなと思ったが、むしろ北海道人の気質だ。よく言えば個人主義で、他人に干渉するのを嫌う。実家暮らしの若い娘がコンビニでバイトしていると嘘をついて何年もソープランドに勤めていても、家族は誰一人気づかない。それが北海道の個人主義だ。

私は関西地方を始め、西日本地域をあまり好きになれないのは、それらの地域は北海道人の気質とは正反対の人達が多いからだと思う。

関西人が東京に引っ越すと「東京人は人情がない」と嘆くが、北海道人は東京人以上に他人に無関心。だから北海道は日本のどこよりも居心地が良い。

食べ終わってからトマトを買う。10個で350円。去年、ここで朝採りトマトを買ったら、とても美味しかった。しかし、今年は埼玉県のスーパーでも北海道産トマトが30個で598円とか、なぜか叩き売りされていた。今年は出来が悪かったのか知らないけど、今年の北海道トマトは味が淡白だ。

8個目のトマトを食べ終えた頃、2時間くらい前に追い越したサイクリストが到着した。リアキャリアにモンベルの荷物ボックスのようなものを装備して『宮城→北海道の旅』と書かれたボードを掲示している。一人旅なのが好感を持てて、彼がトイレから戻ってきた頃を見計らって、挨拶してみることにした。

「こんちはー」

彼は宮城から来た夏休みの学生で、宮城から1週間かけ、自走でここまで道の駅などでキャンプしながらやって来たという。しかし、札幌ではどこでキャンプしたら良いかわからず、カラオケボックスで寝ようとするも、隣がうるさくて寝れなかったらしい。それはそうだな。

これから先のルートは思案中で、5日後の9月6日に苫小牧から仙台行きのフェリーに乗るという。北海道は初めてらしく、帯広に行くべきかどうかiphoneの地図を見ながら相談される。

「帯広は一般的な観光という意味では魅力は少ないが、インデアンというカレー屋が安くてうまい」と独断と偏見でアドバイスする。しかし、彼はカレーに興味を示さなかったので、きっと帯広には行かないだろう。

美瑛の丘が見たい、そう彼が言った。富良野に便乗して今や北海道を代表する観光地と化した美瑛・・・。

彼は特に旅の目的やテーマはなくて、「北海道に行ってみたかった」というのが旅の動機らしい。東北の大都会・仙台よりも数段大きな札幌の街に驚いたことだろう。あとで食べようと思っていたトマトを1つ手渡すことにした。彼も旭川方面に向かうというので「またどこかで会うかもしれないね」と別れの挨拶をして、彼より先に出発する。

「これがいい具合に発電してくれるんですよー。エコですよ、エコ」

彼はアマゾンで買ったという太陽光発電パネルでiphoneを充電しながら走っている。ノートPC、スマホ、デジカメ・・・ハイテク化が著しい今時の旅アイテムだが、電池がなくなると何にもできない。文字通り、ただのお荷物と化す。

ちなみに、スマホは電源オフにして走るのがもっとも電池を消耗しないが、常駐アプリを最小限にしたり、電波OFFモードにしておくと良い。常駐アプリがわんさかあったりすると、大事な所で電池が消耗しきって使い物にならなくなってしまう場合がある。

しばらく走り、神居古潭(カムイコタン)に差し掛かって写真を撮っていたところ、「追いついちゃいましたね」と彼が到着。少しの間、一緒に走ったが「私は写真を撮りながら行くので」と目で先に行かす。

写真の右の方に小さく写っているのが彼。だが、見送ってから、なぜかある種の後悔が。

私は今回の自転車旅では、人との出会いを大事にしようと今更ながらに思った。神居古潭をバックに彼の写真を撮って、後でメールか何かで彼に送ってあげる責任があったように思った。ゲイだと勘違いされたらどうしようと少しためらったが、旅の出会いは一期一会。次に彼に出会った時は、きっとそう提案しよう。

しかし、彼にはトンネルの迂回路を教えたが、迂回路を見逃したらしく、国道のトンネル内を進んでいった。

私は基本的に遠回りでも危険を避けるタイプなので、安全な迂回路を写真を撮りながら進んだ。真剣に追い付こうとしなかったこともあり、彼の方が速かったらしく、その後、彼に追い付くことはなかった。

「いずれまた北海道をじっくり旅したい」と言っていたので、彼はきっとまた北海道に戻ってことだろう。初めての北海道で良い思い出を沢山作り、宮城にその思い出を持ち帰って欲しい。

旭川市内に入る。国道12号線から真っ直ぐのところにある春光台公園キャンプ場に行く。受付時間がぎりぎりなので、少し急いで行く。高台にあって、札幌の開拓記念館のあたりと同じような景色だった。

受付のおじさんと話す。内地の民間キャンプ場は知らないが、北海道の公営キャンプ場の管理人というのは、大体が話好きのおじさんだ。シルバー人材センターか、市役所とかのOBなんだろう。きみ荷物が少ないけど大丈夫? とかシーズンが終わって閑散としているよ、などと言われるが、日が暮れる前にテントを張りたかったので、適当に切り上げる。話好きなおじさんと話していると、こっちから切り上げないと永遠に話が終わらない。

内地のキャンプ場はテント持ち込みでも1泊2000円以上するような所が結構あるし、東京都内の人気キャンプ場だと往復ハガキで応募して当選しないと泊まれないらしい。北海道は飛込みで利用できることが多いので、予定の定まらない人には好都合だ。キャンプって実際は「野宿」のことなんだけど、内地は「野宿」にさえ金がかかるし面倒だ。

ソロのライダーが2組と、日本一周中と書かれた群馬や神戸ナンバーのライダーグループが1組泊まっていた。一番奥にテントを張る。蚊が多いのが気になるが、道内(県内)第2位の街の市街地に、ほど近い場所にあるキャンプ場が無料なのは、日本広しといえど北海道くらいだろう。

食いかけで悪いが、近所のディスカウントスーパー、DZマートで惣菜類と酒を1,700円分くらい買ってテント内で宴会をする。宿代がかからないので、そのぶん、宴会の予算にまわせるのだ。これが節約になっていない原因とも言う。

最近、私は豆腐に凝っている。安いし、栄養があるし、美味しい。豆腐はスーパーとかであっても、その地域の豆腐屋や豆腐業者で作っているので、日本全国、豆腐巡りの旅をすると楽しいことだろう。

今日も冷奴にしようと思い、豆腐を1丁買った。

だが、このDZマートでは惣菜用コーナーで醤油の小袋を配布していなかった。それどころか、コロッケやメンチカツに付けるソースすら配布していない。仕方なく、キッコーマンの100円くらいの小さい醤油の小瓶を買う。

なんで国内旅行で醤油なんてわざわざ買わないといけないんだ、気が利かない店だな、とこの時はグチグチ思った。だが、後にこの醤油がとても重宝して手放せない存在となるとは、この時は思いもしなかった。

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4日目 北見峠のその先に

昨夜泊まった旭川・春光台パークホテル。

ここは市街地に近いこともあって、付近の住民の散歩コースともなっている。

野営では死角は文字通り死角となる場合があるが、住民の散歩コースなら、死角とはなりえないので安心と言えば安心だろう。旭川は北海道内では治安の悪い街だが、無料キャンプ場に泊まっているような貧乏人を狙うほど、強盗も暇ではないだろうが。

7時頃、テントを撤収して上川方面へ向かう。

最初の予定では富良野経由で釧路に向かう予定だったが、道東をテーマとする旅にしようと思い、富良野や帯広はパスすることにした。昨年と同じく、北見峠を通って遠軽方面に向かう。同じコースでも、心がけ次第で新たな発見があることだろう。

旭川市街地を抜けると道路の両脇が田んぼが広がる。夏場の気候が良い所なのか稲作が盛んだ。

セイコーマートでナポリン休憩。ナポリンはオレンジ色のご当地サイダーだが、旅の前半は好物のナポリンばかり飲んでいた。ロクな栄養素は入っていないが、甘いので瞬間的には疲労が取れた感じがする。

洗濯物を干しながら走るスタイルはバックパッキングの本に書いてあったのをヒントにしている。バックパッキングの世界ではよくやるのだと言う。見てくれは良くないが合理的である。

今回は前回気づかずに通り過ぎてしまった上川の街に立ち寄る。北海道の西側と東側を隔てる大きな山脈の西側にある最後の街だ。関東で言えば、群馬のみなかみ町みたいなものだろう。上川を過ぎると、今後しばらく街はない。

上川には、こういう屋根のついたベンチがあって、全日食チェーンのスーパーと、セイコーマートが隣接している。全日食チェーンのスーパーは惣菜がユニークで格安なことが多い。

JR上川駅。石北本線の全列車が停まる大きな駅。石北本線では珍しい近代的な駅舎。

上川の街を後に、先へ進む。直進すると石北峠、左折すると北見峠へと進む。北見峠は無料の自動車専用道路と併走しているので、自動車やバイクの走行が激減しているらしい。実際、車があまり通らない。

山中で徒歩旅行者の方を見かける。トホダーなどと言うらしい。徒歩でも時速5キロとすると、10時間で50キロ移動できるのだから、自転車の移動距離が一日平均100キロくらいというのと比べても、実は歩いても自転車とそんなに変わらないくらい移動できる。

北見峠を登りきると反対側は遠軽町の白滝地区だ。遠軽の市街地にはまだまだ距離がある。間違いやすいが、旭川方面から見て遠軽に出るのが北見峠で、JR石北本線と併走していなくて北見に出るのが石北峠。

白滝の市街地を視察。上川もそうだが、白滝も国道から少し外れた所に市街地がある。計画的に開発された北海道では、国道が街のど真ん中を突っ切っているケースばかり・・・と思っていると、あっけなく通り過ぎてしまう。

さらに進むと、丸瀬布の道の駅。

最近、このあたりに白滝ジオサイトというよくわからない何かが出来た。それはどうやら、ディズニーランドのような何か特定の施設があるわけではなくて、白滝や遠軽など、要するに、この地域全体を指している呼称の一種らしい。

この地域は全国有数の黒曜石の産地だ。実家の裏とか空き地とかにゴロゴロ普通に転がっているので、大人になるまで世界中どこでも黒曜石がゴロゴロしていると思っていたが、この地域特有だという。地元では十勝石と言っていたな。

白滝ジオサイトは黒曜石の採掘場跡っぽいものを見せたりするイベントがあったり、一応、中枢となる博物館のようなものがある。基本的には、白滝ジオサイトは『彩の国 さいたま』みたいな標語のようなものと理解すれば良いのだろうか。偉い人の考えることはよくわからない。

旧遠軽市街まで行くのが辛くなってきたので、丸瀬布のいこいの森キャンプ場を目指す。名前だけはよく聞くが、国道や丸瀬布の市街地から10Kmくらい離れた山奥にある。丸瀬布の市街地自体がかなりの山奥なのだから、なにも山奥の山奥にキャンプ場を作らなくても・・・と素人考えでは思う。だが、現実がそうなのだから仕方がない。

キャンプ場の近くに日帰り温泉施設があるようで、それをあてにしていたが、たまたま定休日だった。ついていない。

途中、ダムを発見する。ダムマニアなら喜ぶだろう。

キャンプ場についたら、1組ソロのライダーがいて、他に車利用のオートキャンパーの家族が3組くらいいた。こんな市街地でさえ大自然に囲まれた場所では、わざわざキャンプをしなくても自然の中に住んでいるようなものだ。

テントを設営したら、食事と蚊取り線香を買いに市街地へと出かける。が、片道10キロ以上もの道のり。ぶっ飛ばすが、街灯もない道で寂しい。市街地には一軒だけセイコーマートがあったが、蚊取り線香は品切れ。店員に聞くと『遠軽まで行かないと丸瀬布に他に買える店はないよ』とのこと。なんだか、普段、物が有り余っている都会に住んでいることが恥ずかしくさえ思えた。

ご飯を買ったら、またキャンプ場に戻る。帰りはヤケに遠く感じる。往復20キロ以上だから仕方がない。

このキャンプ所の近くはデントコーン畑が広がる。最近、デントコーンを食べるためにヒグマが出没したらしい。キャンプ場の周囲は電線で囲ってある。安心して眠れるだろう。

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5日目 そしてヒッピー状態へ

昨晩宿泊した、丸瀬布リラクゼーションホテル。

このホテルの特徴はテント持込用の区画、キャンプ場用語で言うところのフリーサイトが砂や小石でゴツゴツしていることだろう。私は荷物を減らすために銀マットを省いているので、今までの芝生が床面だったホテルに比べて、ゴツゴツして寝づらかった。水環境が良いからか蚊は心配していたほどはいなかったが、小石の上で眠る覚悟は必要だろう。

よくキャンプの入門書では『銀マット必須』『あるとないでは天と地獄の差』みたいなことが書かれている。

しかし、実体験としては、そんなのは机上の空想レベルで、少なくとも北海道の夏場のキャンプ場においては、銀マットなど必須ではない。ここのような小石の上で眠るようなケースを除いては、銀マットがなくても寝袋だけで問題ない。快適さを求めればエアコンの効いた建物内で、高級ベッド+高級ふとんの方が銀マット+寝袋より快適なのだから、荷物を減らしたい場合は銀マットなんかなくていいと思う。

それでも銀マットを積んでいるツーリングライダーをよく見かける。銀マットを積んでいない方が珍しい。彼らはツーリングというワイルドなものをやっているのに、案外おぼっちゃんなんだなぁ、などと思ってしまう。

実際、そんなこと私にはどうでも良くて、テントを片付けて遠軽市街地へ向かう。

朝もやでいい感じのダム周辺。少し中国っぽい。

その前に、丸瀬布のセイコーマートで食事をする。朝6時オープンで、店の前に到着した時がちょうど6時だった。環境面などから『コンビニ24時間営業』の賛否が道外で問われているが、北海道の方が先進的で、セイコーマートは昔から都市部を除いて大半の店舗が深夜帯は営業していない。

このセイコーマートでは少し嫌な思いをした。イートインスペースのようなものがないので、写真のような店舗脇で食事をするのだが、駐車場が沢山空いているにもかかわらず、すぐ前にバックで駐車され、排気ガスを浴びせられるという嫌がらせを受けた。埼玉県や千葉県などではアイドリングが条例で禁止されているが、ここ北海道はコンビニ程度の買い物でエンジンを切る人はむしろ少ない。車どころか、バイクさえもエンジンかけっぱなしで買い物をする人がいる。

適当なイラストだが、こんな感じ。自転車で旅してるふうな人を歓迎しない人がいるというのも理解できるが、どんな思考をしたら食事している人間に発ガン物質も含まれる排気ガスを浴びせる行為ができるのだろう。

もし、貴兄が北海道のコンビニ前で食事をするなら、こんな不快で不健康な行為を受ける可能性があるので、自衛として駐車スペース1台分の中心部分に自転車を停めることをおすすめする。さすがの嫌がらせ好きな北海道人でも、自転車を破壊してまで排気ガスを浴びせようとはしまい。

このころよく飲んだのが缶コーヒー。甘さは茨城などのMAXコーヒーに近い。食事を終えたら遠軽に向かった。天候に恵まれているし、山から海に向けて走っているようなものなので、下りベース。2時間くらいで遠軽に着いた。

遠軽の街のシンボル、瞰望岩。もともとアイヌ民族の時代から戦争の見張り台として利用されていただけあって、街の全体が見渡せる。東京とかだったら、わざわざ高い金出してタワーなどを作らないとならないが、自然環境としてこのような展望台がある田舎街は珍しいだろう。

上は太陽の丘と呼ばれる丘状の公園になっていて、無料のキャンプ場があり、日本最大級とされるコスモス園もある。

洗濯物を干したりしてゴロゴロしていると、この街で教頭先生をしているという方が通りかかる。

「おはようございます」

声を掛けられる。旅の趣旨などを話し、時間があったら学校に遊びに来て下さい、というありがたい誘いを受ける。が、私はその学校の卒業生ではなかったので、遊びに行ってもどう振舞っていいか思いつかず、結局学校には足を運ばなかった。

私はこの街で生まれ育った。駅の近くに味の一平という小さなラーメン屋がある。ここ数年で遠軽にも味の時計台やさんぱちと言った、札幌に本社がある大手ラーメンチェーンが進出してきた。しかし、人口2万人前後の街としては遠軽はラーメン屋が少ない。

そんな中で、昔から続いている伝統あるラーメン屋が味の一平だろう。

いつもは典型的な職人肌の店主とは何も喋らないが、自転車旅をしている人には店主はよく話しかけるという。「故郷はどうだ」などと言われるが、「帰って来たって仕事がないだろう」と私が言う前に、この地で自営業をして37年目の店主が自分で言い当てる。

まぁ、北海道ではよくあることだが・・・「内地は台風も来るし、大地震も起きるし、内地は本当、人が住む所じゃないよね」的なことを仰る店主。

「いやいや、それが・・・関東では雪が10センチ弱積もっただけで大パニックなんですよ。スーパーとかも臨時休業して、去年は大変でした。一晩でアホみたいに1mも雪が積もるこのへんには、関東の人は絶対住めないですよ!」ということを言って応戦しようと思ったものの、無駄な戦いだと思って辞めた。

店主は最近進出してきた他のラーメン屋のことを全く意識していないというが、近々、山岡屋が進出することを把握するなどしっかりアンテナを張っていた。

どっかに行こうかとも思ったけど、面倒くさくて例の丘にテントを張ることにした。もちろん貸し切りだ。1人だけ、犬を連れた若い奥さんが散歩に来た。

遠軽の街では100円ショップで固形燃料と鍋を買い、キャンプ場でジンギスカンの調理を試みた。きちんとしたガスのストーブを買うか迷ったが、遠軽のホームセンターではガスカートリッジは売っているものの、ストーブ本体は売っていなかった。蚊取り線香も買った。

完璧に焼けていると思ったが、後で写真を見ると肉がかなり赤い。でも、ものすごく旨かった。野外調理はキャンプの醍醐味かもしれない。それに火を使うことで少し文明人になった気がする。

肉が旨くて酒も旨い。酔っ払ってテントの中でこういう状態になる。不満もなければ、望みもない。これまで経験したことがないような幸せな時間だった。