丘の上ホテルから眺める遠軽の朝焼け。
コーヒーの作成を試みる。
このころは経験不足により固形燃料で熱い湯を沸かすことができず、ぬるいコーヒーしか作ることができなかった。
最近、道東地区でよく見かけるようになったのが空き地に設置されたソーラーパネル。寒い北海道で太陽光発電なんて効率よくできるんだろうか。本州の業者に唆されたのでは、と心配になる。
湧別方面に向かう。道の駅に温泉施設があるので風呂に入りたかったからだ。しかし、そのチューリップの湯は10時オープンで、少し早い。湧別の街まで行って、博物館などを見学する。
この地域は松前藩宗谷場所、根室県などを経て現在に至る。北海道も昔は3つの県に別れていたが、今で言う道東、ひがし北海道は根室県に相当する。湧別は昔から住みやすいところだったらしく、6000年くらい前から人が住んでいたそうだ。
かみゆうべつ温泉、チューリップの湯。500円。ボディソープやシャンプーなども備え付けで、サウナや、きれいな花壇などが設置された露天風呂まである。休憩施設もあり、東京近郊なら1000円くらいしそうな内容だ。
ミックスフライ定食。760円だったかな。湧別はオホーツク海やサロマ湖があって、漁業の街だ。ホタテの本場で、まずいわけがなかった。こんなうまいホタテフライを食べたのは初めてで、ぷりっぷりとした柔らかい貝柱と、化学調味料などではない自然が生み出すまろやかな風味が忘れられなかった。
その後、紋別市を目指す。
もともと消耗していた後輪側のブレーキシューが北見峠の下りで擦り切れてしまったので、新しいものを紋別のイオンで購入できればと思った。紋別の市街地は遠く、その手前のコムケ湖というところにキャンプ場がある。先にテントを設営してから、街に向かおうと思った。
コムケレイクサイドホテル。国道に看板が出てたり、キャンプ情報の本に紹介されたりしているわりに、利用者は誰もいなかった。テントを設置して街に向かおうとしたところ、雨がパラついてきた。この旅、はじまって以来の雨だ。すぐに雨具を装着する。
なるほど。500円の安物の作業用雨ガッパは、完全防水だが汗つまり水蒸気を全く通さないため、雨を防いでも汗で衣服が濡れる。ゴアテックスなどのハイテク素材とは違うのだ。ただ、あとで熊本のキャンパーのおじさんに教えて貰ったが、自転車だとどんな上等なレインスーツでも蒸れるのは仕方ないという。ホームセンターの2000円くらいのやつで十分なんだそうだ。
キャンプ場から市街地は遠い。アップダウンもある。片道2時間近くかかったように思う。どうにか街に着くも、雨も止まないし、はて、イオンってどこにあるんだろう・・・とうろつく。小さいときにまだサティだった時代に来たことはあるが、20年近く前の記憶だから思い出せない。去年、紋別に来たときに発見できなかったから、湧別~道の駅の間にはないだろう、ということしかわからなかった。
イオンは坂の道を上がったところにあった。幸い、紋別の市街地はそれほど広くはないので15分くらいで見つかった。
紋別のイオンに駐輪。雨をしのげる場所は、この数十センチの軒下しかなかった。
この紋別のイオンに限らないが、イオンの自転車売り場は時間帯や日によって、整備士がいたりいなかったりする。レジの女性はいても、自転車のことがなにもわからないので、買い物しかできない。私の自転車は一般的なロードバイクなどと同じキャリパーブレーキ。だが、苦労してきたわりに、ここにはVブレーキ用のブレーキシューしか置いていなかった。これが使えるのかどうか知りたかったが、整備士がいないのでわからない。一応、整備士の出勤日を教えて貰うが、それまで紋別に滞在するわけにもいかない。
これから雨の夜道を2時間かけてキャンプ場まで戻ることを考えると、荷物になるマトモな食料は買う気が起きなかった。イオンと道の駅のスーパーで食事を調達したが、ビスケットやスナック菓子のようなもの数点を買った。去年も行ったカマボコ屋に行って、天ぷらを買ったが「どこまで行きますか?」と何度も聞かれた。質問の真意はいつ食べるか判断することで、レンジアップするかを決めるのだが、私は温めなくて結構とだけ答えた。しかし、どこまで行くかという質問をしつこくされる。
大雨の中、誰もいないキャンプ場へ2時間かけて自転車でビショ濡れになりながら帰り、狭いテント内でビショ濡れの体をタオルでピチピチと拭きながら、すべてが嫌になった状態で震えて食べるのだ・・・という、アホ&バカ丸出しの数時間後の自分の境遇を想像しつつ、それを口に出して伝えるのがとても億劫だった。そんな境遇が待っているのだから、その私の所有物となった天ぷらは、温めないで、ただそのままお渡し頂ければ結構だと思った。
2時間かけてキャンプ場に戻ると、入り口付近にキャンピングカーが2台停まっていた。雨は少し弱まっていたが、岡山ナンバーのキャンピングカーの老夫婦がチーズケーキを食べている。
「あんた、あのテントの人? 車がないのにテントだけあるから、おかしいと思ったら、自転車だったんだね(笑)」
「キャンピングカーで周っているんですか?」
「うん、友達と周っているよ」
「羨ましいですねー」
年金暮らしと思われる年代だが、冷静に考えたら、ちっとも羨ましいと思わない。人生の終盤の頃になって、キャンピングカーで金に物を言わせて寂れた北海道のこんな田舎を周って、自転車旅の人間を半笑いにする人を羨ましいなんて思うわけがないが、社交辞令が口走ってしまう。
このキャンプ場は街から遠いだけでなく、蚊が異様に多かった。蚊は大雨だろうと活動に影響しないようだ。
私は今までの自転車旅の経験から、衣服をレイヤードシステムにしている。いわゆる重ね着で体温調節できるわけだ。ビショ濡れで一晩過ごすのはリスクが高いので、ビニール袋に入れて濡れないようにしたユニクロのヒートテックに着替える。暖かい。このヒートテックのおかけで、風邪をひかずにすんだ。帰ったら、ユニクロに感謝状を贈ろうと思った。
よくキャンプ本などではフリースを推奨してたりするが、ヒートテックの方が軽くて嵩張らずに、しかも暖かい。
深夜になっても雨は強まるばかりで、テントに浸水しないか気が気ではなくて、よく眠れなかった。ただただ、早く朝になって欲しかった。