First Stage 埼玉~新潟編

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2日目 その2 バトルオブ三国峠

前橋市から40Kmくらいだろうか、上越新幹線の上毛高原駅付近まで来ていた。想像はしていたが、勾配が思ったよりきつい。いくらママチャリとは比較にならないほど軽い、約10Kgのクロスバイクとはいえ、登りが延々続くのは辛い。路肩が狭いうえに大型トラックの走行量が多く、安全上の心配もあって、実は2度ほど少し引き返した。自転車なんかやめて帰ろうかと思った。

しかし、何かが自分を引き留める。ここでやめたら二度と自転車旅行なんかしたくならないだろうと思った。

「退却クソくらえ!」 自分に何度も言い聞かせながら、ここまでやってきた。時刻は午前7時過ぎだ。明るいうちに埼玉まで帰れそうなのは、大体この地点までである。ここから先に進むと、自分の能力的には1日で帰れる距離ではなくなるだろう。

電車では何度も通ったことのある地域ではある。しかし、眠っていても目的地まで運んでくれる電車とは違い、いま頼れるのは自分の力のみ。きちんとした地図など持っていないので、道路標識や直感を頼りに駅を探す。

上毛高原駅のホーム。新幹線の駅とは言っても、新幹線しかない駅なので、東京駅とか名古屋駅みたいなのとは雰囲気がまるで違う。山の中にある隠れ家みたいな駅だ。探すのが大変だったくらい。新幹線駅の中では秘境駅と言っても良いだろう。

空気を運んでいるような上越新幹線『MAXたにがわ』のデッキに自転車を配置。上越新幹線に乗るのは2年ぶりくらいで、サイクリストとして乗るのはもちろん初めてだ。

上毛高原駅から一つ先の駅、越後湯沢まで新幹線輪行する。約15分の旅だが、自転車で旅していると、新幹線というのは異様に速い乗り物だというのが、ものすごくわかるから不思議だ。

温泉地、越後湯沢に到着。初めて自転車で関東以外のエリアを走るのだというワクワクを感じながら、駅前で自転車を組み立てる。越後の風を切って、ペダルを漕いでいく。

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2日目 その3 爽快! 海を目指してダウンヒル

ヒャッホーイ! 自転車での関東脱出がこんなに心地よいものだと思っていなかった。誰もいないから恥ずかしくないが、「ヒャッホーイ!」とか叫びながら国道を進んで行く。

手前の道路が国道17号線で、奥にあるのは農地の上を走る上越新幹線の線路だ。右も左も、遠くにも山が見える景色は、北海道と近いものがある。首都圏に住んでいると景色に山が見えないので、パッと見で景色が違う。こんなことに感動する。

峠を新幹線で超えたわけだが、越後湯沢から海側の新潟市に至るまで、ほぼ下り坂である。特に越後湯沢付近はかなりの下り坂で、時速30Kmオーバーで爽快に進んでいく。ほとんど漕がない。新幹線や普通列車でも景色のよい区間だが、自転車だと何も遮るものがないので、さらに爽快だ。

途中、小出付近で休憩を取る。付近のセブンイレブンで昼食を買い、魚野川を眺めながら休む。

私は外で食事をするのが好きだ。レストランで食べるよりも安く済むし、他の客とか店員さんとかが気にならない。それなりのレベルの店だと、食べ終えたものから食器をわざわざ片づけたりしてくれるのだが、そういったサービスが好きじゃない。食券制の店は文字通り機械的過ぎるし、後払いの店だと注文してから金を払うまで間は一時的に借金状態になるわけだから、支払義務が生じる。レストランとは自由とは程遠い空間なのだ。

すでに今日はかなり走った気がする。どこまで行けるだろうか。長岡がいいところだろうが、無理をすれば本州日本海側最大都市である、新潟市まで行ける気がしないでもない。そう、無理をすれば・・・。

休憩を終えてから、また走り出す。まだまだ山中と行った雰囲気で、ところどころ小さな峠のようなものがある。中越地震で修復した結果、本来より断面が狭くなってしまったトンネルがあったりした。

自転車に乗っていると風で目が乾く。何気なく目を擦った時にコンタクトがずれてしまい、近くのスーパーでコンタクトを入れなおす。目が見えないと走れないので、今度から目薬を差しながら走ることにしようと思った。そういったトラブルはあったが、しばらくして長岡に到着。駅前のイトーヨーカドーで2回目の昼食をとる。

食べてばかりいるようだが、自転車旅行中は2時間おきくらいに食事を摂る。自転車は有酸素運動なので痩せますか?と聞かれることが多いが、食べ物は車で言うガソリンなので、食べないと走れない。カロリー消費量はものすごく多いが、同じだけカロリーを取らないと走れない。プラマイゼロ。自転車で世界一周して太ったという人もいるくらい。

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2日目 その4 掟破りのサイクリスト

前橋をスタートして上毛高原駅→越後湯沢駅は輪行したが、今日はすでに130Km以上も走っている。「1日の走行は100Kmまで」という自分流の掟を作りながらも、自分で掟を破って走っている。

長岡駅前のイトーヨーカドーに寄る。地元の女子高生が沢山集まるフードコードで食事を摂っているうちに、徐々に体力と気力が回復してきた。長岡は良いところなので宿泊したかったが、例の現象でホテルが高い。諦めてさらに先に進む。長岡から約30Km先の三条市の国道沿いに某ネットカフェがあるので、そこをエスケープ場所にしよう。それに線路も付近を走っているので、いつでも輪行ができる。複数のエスケープ手段は確保できている。

ちなみに、例の現象とは人口1万人~20万人くらいの都市は、人口20万人~200万人以上の大都市よりもホテルの相場が高いことが多い現象のことだ。リゾート地でなくても。需要と供給の関係や、競争が起きにくいことが要因だろう。

長岡市と新潟市は、新潟県では2大都市である。本州太平洋側で言えば東京と大阪、北海道で言えば札幌市と旭川市と言ったところ。高速バスや列車がバンバン走っている区間だ。普通列車も7両編成など長い編成の列車が走っている。

当然、道路もよく整備されていて・・・というか、交通量が半端ではないのだ。国道8号線は直線的な道路で自転車も走りやすいが、あとで北海道でも思い知ることになるが、直線的な道路というのは精神的にとても疲れる。

ショッピングセンター・イオンの大型店は、直線に見えても店内の通路を微妙にカーブさせているという。人というのは、直線でずっと先が見えると進んで行くのが嫌になるからだ。だから、わざとカーブさせているらしい。街と街を道路で結ぶなら、直線の方が効率が良いのは確かだが、自転車だと真っ直ぐな道は精神的な疲労度が高い。

新潟市を示す標識。やっと新潟市に着いた。というのは平成大合併以降の自転車旅行にありがちなトラップで、実際の新潟市(?)はもっと先だったりする。市町村で言うところの新潟市には入ったけども、鉄道旅行の時にイメージする新潟市、つまり 新潟駅付近などの市街はここから30Kmも先なのである。

ここから1Kmおきに「新潟まで○○Km」という小さな標識が出るのだが、直線道路と組み合わさって結構な苦痛である。道路標識というのは、基本的に自動車やバイクの人のためのものなので、自転車だと「こんなに走ったのにまだ○○Kmもあるのか・・・」とげんなりする人が多いのではないだろうか。

新潟市南区というのは、札幌市南区と同じくらい、街の中心部の雰囲気とかけ離れたものがある。新潟市に鉄道で何度も行ったことがある私でも、南区に来たのは初めてで、怪我の功名というか、自転車旅行だからこそ来たという感じがする。一人旅の自転車旅行では寄る気にもならないが、果樹園が多いようである。白根という地域だ。元は白根市だったが、現在は合併で新潟市となっている。

リンゴは全国的には青森県産が有名だが、白根産のリンゴや梨は新潟県内のスーパーなどで売られている。

国道沿いで交通量も多いが、意外にコンビニや飲食店が少なかった。途中で漕ぐ力がなくなってしまった。車で言うガス欠である。仕方がないので、非常食として持ち歩いていたサーターアンダーギー(沖縄風のお菓子、埼玉で買っておいた)を国道上で食べて凌ぐ。

標識はあと15Kmの表示。うーん、遠い。はるか彼方と思えて仕方がない。が、交通量も多く、気をしっかりさせないと危険なので、気合を入れなおす。もう少しで到着だ。

適当な旅行なので、まともな地図を持っていない。この国道8号線が新潟市街地のどのへんに出るのかわかっていない。イメージ的には鳥屋野潟とか新潟駅南口付近ではないか?と思っていたが、標識によると、新潟ふるさと村あたりにアプローチしているらしい。

悪いことに、何度も行ったことがある新潟市でも、ふるさと村の付近は全く土地勘がない。しかし、その付近によく利用するネットカフェのチェーンを見つけ た。立ち寄って、いまさら情報収集する。明日以降は観光も予定しているので、ゆっくり休みたい。新潟市内にホテルを予約する。安いホテルがあって良かったし、一度泊まったことがあるホテルなので地図も必要ないな。これで安心だ。

ネットカフェを出たころ、街は夕日に染まっていた。

END