サイクリング

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

13日目 北きつね牧場

せっかく温根湯に戻ってきたんだから、北きつね牧場にも行きたいと思った。あとで調べたら北きつね牧場は8時から営業しているらしかったが、実際に現場に行くと8時ではやっているのかどうかよくわからなかった。近くの道の駅の施設が大抵8時30分に開くので、北きつねも同じなのかなと、道の駅で時間を潰していた。

8時30分に道の駅の施設内で北きつね牧場の割引券を発見。やはり、8時から開いていたらしい。だが、割引券を入手できたので待った甲斐はあるだろう。

北きつね牧場では、きつねは放し飼いにされている。本来はきつねは集団生活は送っていないそうだから、きつねにとってはあまり良い環境ではないだろう。

きつねも見れたし、再び遠軽方面を目指す。

日中でも15度と、北海道はかなり寒くなってきている。もう夏のキャンプシーズンはとっくに終わっていて、私の使っている薄手の寝袋では寒さを凌ぐことが難しくなるだろう。

遠軽に着いたら一平でカレーを食べる。実に15年ぶりくらいだろう。それから湧別のチューリップの湯に向かう。あと3キロくらいの地点で雨が降ってくる。雨具を着るか、濡れる前に辿り着けるかの賭けだったが、天気には負けて、それなりに濡れてしまった。

東京の紳士服の青山で1000円で買ったウインドブレーカーっぽいジャンパーを着ているが、これは一見、雨を弾くように見える。しかし、実際は吸水性抜群で、キッチンペーパーの如く雨をどんどん染み込む、クソジャンパーであることが判明。ウインドブレーカーっぽいジャンパーでなくて、やっぱレインウェアとかを用意した方が良かったと思う。本当にどんどん雨を染み込むので、少しくらい雨を弾けよ、と思った。

風呂に入ってから食堂で念願のホタテフライ定食を頼む。うん、やっぱなまら旨いよ、ここのホタテフライは。地元のおじさんもホタテフライを頼んでいたし、ここはホタテの本場に違いない。

テレビを見ると、道央方面をはじめとして、北海道の各地に大雨警報が出ていた。大変な事態らしい。

私はホタテフライを食べ終えてから、このホタテが育ったであろうサロマ湖を見たくなった。サロマ湖というけども、この湧別町もサロマ湖が面している。

うまい具合に雨も上がって、サロマ湖に導かれているようだった。

夕暮れのサロマ湖だ。

ここは三里浜キャンプ場に続く道で、住所だと湧別町登栄床という所だ。オホーツク海とサロマ湖に挟まれた所だが、住宅など街があった。おそらく漁業関係者の人が住んでいるのだろう。

幻想的にさえ思える景色。

「すげえ景色だな」
「全くだな」

と、自分と自分が脳内で会話していた。

この道路の突き当たりにある展望台。右側がオホーツク海で、左側がサロマ湖だ。キャンプ場の入り口にライダーが3人いたが、キャンプ場は管理人もいなくて閉鎖されているふうだった。ただ、遮るものが何もない環境なので、風が強く、とてもテントを張れるとは思えなかった。ライダーはしばらくしたら皆帰っていった。

日没後、サロマ湖を後にして、この日は遠軽のキャンプ場まで戻った。

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

自転車旅行記 ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編 12日目

ホタテフライ夢ロード

最終目的地であった釧路に辿り着いた私は、これから先、帰路へと進むことになる。

今回の旅では色々な人と出会った。江別のキャンプ場で出会った熊本のおじさんは、山に行っているのだろうか。何か、探しているものが見つかっただろうか。宮城の大学生はまた元の学生生活に戻ったことだろう。それぞれの旅が同時進行で進んでいるのだ。

ここが釧路に向かう時に間違えてしまった分岐点らしかった。復路では美幌峠経由で、とりあえず今日は北見方面まで行くことにする。

美幌峠に臨む前に、屈斜路湖を見学。ここは和琴半島というところで、キャンプ場もあるらしい。60代くらいの男女の観光客グループに声を掛けられる。

「自転車で来たの? 爽やかでいいわね」

と言われたが、テントの中で考えることはロクでもないことが多いし、洗濯とか入浴もできたりできなかったりで、そんなに爽やかではないと思った。札幌方面に向かうというと、大雨で道路が冠水しているとかなんとか。天気予報は今後、チェックしたほうがいいと思った。

美幌峠から見る屈斜路湖。美幌峠を登り切る直前、路肩にバイクを停めて湖を見ながら休んでいるアホ面のライダーが、珍しく峠を自転車で登ってきた私に「ヨオ」だか「ハイ」だかわからないが、小さく声を掛けてきた。モータースポーツだか何だか知らないけど、峠を登る切る直前だったこともあって、このライダーが長野や茨城のライダーを彷彿とさせたので、イラっとして無視する。

美幌峠を登る途中では、20歳くらいの若い男性トホダーを見た。

美幌の街へ向かう途中、野生の北きつねを発見。もっと写真を撮りたかったが、でかいバイクが爆音で走ってきたので、きつねは逃げてしまった。

美幌の街に到着。美深、美幌、美瑛、美唄、美寄など、北海道には美Xという街が多い。それぞれの違いがわかるようになったら、内地の人でも半分くらい道民になったようなものだ。ちなみに美寄は映画・鉄道屋に出てくる架空の街。

シティ美幌店で食事。ここでも旭川で買ったキッコーマン特選丸大豆醤油が役に立つ。埼玉のスーパーなんてセコイものだが、道東のスーパーは焼肉とか唐揚げとかウインナーとかハムとか、平日でも豪華な試食を提供していることが多い。

このまま勢いで北見まで行こうとした所、雲行きが怪しくなり大雨になった。本降りになるまでの猶予はほとんどなかったが、偶然、近くに東屋のある公園があったので、1時間くらい雨宿りをする。雨が止んでから、再び北見方面へ向かう。

北見の街にも名残惜しいものがあった。私にとって北見は間違いなく特別な街だ。子供の頃の私は、手の届きそうな都会と言えば北見であり、札幌でも東京でもなかった。どっちも最短で4時間かかるくらいに遠い場所にあっただからだ。日本という国では基本的に都会の人間が得するようになっている。だから、大都市に生まれたり、大都市が近くにあるというのは、大抵の場合は幸せな境遇なのだ。

この日は、天気が悪かったらネットカフェかホテルに泊まろうと思ったが、明日、遠軽や湧別方面に戻ることを考えると、温根湯のあのキャンプ場まで行こうと思った。暗くなってしまうが、一度行ったことがあるキャンプ場だから、それほど心配しなかった。

とは言っても、北海道ツーリング最大の苦悩は、毎度毎度、走行距離が長いこと。釧路市動物園の時も思ったが、10Kmという距離でも、家の近所でぶらぶら走ってればあっという間だが、何時までに辿り着きたいとか、目的があって走る場合は10Kmでも非常に遠く感じたりもする。

えーい、今日も酒池肉林やー!と思い、途中のスーパーで色々買う。このへんは完全な車社会だが、24時閉店とか、24時間営業のスーパーが多い沖縄県や新潟県などと違って、21時くらいでスーパーは閉店する。絶対的な人口が少ないからだ。

テントの中では、大体いつもこんな感じ。家にいる時の3倍くらいは酒を飲むし、普段、嫌煙家で煙草なんて吸わないのに煙草も買ってしまう。ジャンクフード、コンビニ弁当、つまみばっかりで、いくらカロリー消費の高い自転車旅行中とはいえ、不健康極まりない。私は旅行中、毎日これだけ食べても体重は維持できているし、むしろ少し減っている。

あとで熊本のおじさんに聞いたが、ツーリングライダーの中にはアル中になって、テントで冷たくなって死んでしまう人も結構いるとか。リアルな話だけど、だろうな、と思った。

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

11日目 青春18切符で最果ての街・根室へ

港町・釧路に朝が訪れた。

この日、自転車はそのへんに放置プレイして、鉄道で最果ての街・根室に行くことにした。自転車のオフ日、わかりやすく言うと休息日である。毎日毎日、自転車に乗っていると、体があちこち痛くなるし、特にケツの痛みは深刻なものとなる。

元々、こういう日を作ろうと思って、1日分だけ残した青春18切符を持ってきていた。何かトラブルがあった時のためにと、お守り的に持っていたのだが、明日で使用期限が切れるので、今日、根室までの往復で使ってしまうことにした。

釧路駅始発の快速はなさきに乗ると、2時間くらいで根室に到着。

札幌からの特急は釧路が終着で、釧路から根室までの区間は特急列車が走っていない。そのため、ローカル線としては例外的に、小奇麗な身なりの旅行者やビジネス客が多い。

ルパン三世のラッピング車両なのは、この沿線が作者の地元だからだ。しかし、同じ時刻の列車でもラッピング車両が割り当てになるかどうかは日によってまちまちで、一般人にはわからない。鉄道マニアはきっと、ラッピング車両に乗るためにマニアの情報網で下調べしてからやって来るはずなのに、何の気なしにノホホンと乗れるのはラッキーなことだろう。

ちなみに、私は青春18きっぷや北海道&東日本パスでほぼ毎シーズン旅をするが、時刻表という電話帳みたいな分厚い本を買ったことが人生で一度もない。基本的に、マニアの方は時刻表を持って旅している。鉄道マニアの中には、時刻表マニアなる人達もいて、時刻表を買わないヤツはけしからん!と仰る方もいる。

しかし、私は頭の中にあらかた必要な路線の時刻表データが入っている。だから、あの分厚い本を必要としないのだ。私は仕事道具でも何でも、本質的なものだけに価値を感じ、モノというもの全般に執着することがあまりない。

典型的な分かれ道。根室は北海道本島の最東端にあたる街で、一般人が行ける日本最東端の街だ。北海道の他の沿岸都市と比べて、すっきりした綺麗な街並みが印象的だ。

根室の名物は花咲ガニと、このエスカロップ。昨年はドリアンという根室で有名な喫茶店でエスカロップを食べたが、定休日なのか時間の問題なのか開いていなかったため、大通りのイーストハーバーホテルのレストランに行った。朝食時間帯には提供していないので、ランチ時間帯まで公園で酒などを飲んで過ごす。

根室のスーパーで朝食用の酒やつまみを選んでいる時、ロシア人っぽい女性に『ここのメンチカツ、すごく美味しいんですよ』と薦められた。試食があったので食べてみたが、ちょっと塩コショウが強いというだけで、普通に美味しいと言うレベルだったから買わなかった。その女性は何枚もメンチカツを買っていた。

根室はいい所だ。綺麗な風が吹いている。

帰りの列車では車窓から沢山のシカを目撃する。一般観光客の中年女性グループが歓声をあげる。

釧路の街に戻ると虹が架かっていた。列車の中でこれからのプランをざっと考えた。私は釧路には何度も来ているが、釧路名物とされる勝手丼だけは食べたことがなかった。

勝手丼とは、釧路駅近くにある和商市場で提供されている海鮮丼の一種である。ご飯を買って、好きな具を乗せて作る、バイキング形式の海鮮丼だ。市場ってあまり好きじゃないんだけど、今日で釧路が最後になるので挑戦してみる。

和商市場=勝手丼というくらいの勢いで、市場には勝手丼を提供している店がいくつもあった。街中にあまり活気のない釧路にあって、意外にも活気のある市場内。市場を一周し、30歳くらいのお兄さんの店で頼むことにした。

今は15時45分くらいで、16時半くらいの列車で茅沼駅まで輪行してキャンプ場へ戻ろうと思った。時間に余裕がないため、持ち帰りにしようと思った。お兄さんに聞くと、向かいの店でご飯だけをまず買うらしい。まだあまりお腹か減っていなかったから、ご飯も具も少な目の構成で頼んだ。合計500円ちょっと。これはうまくやると、300円くらいで新鮮なイクラ丼が食べられるのでは?と思った。

輪行の準備が終わり、列車を待っている間に作成した勝手丼を食べる。これは・・・旨い。今回の旅行中で食べたもので、ベスト5に入る旨さだ。観光客用だから、と侮ってはいけない。ぜんぜんいける、旨い。

そういえば、注文している最中に店のお兄さんと会話を交わした。なんでも、お兄さんは私が住んでいる所の隣町である埼玉県春日部市に7年住んでいて、割と最近、地元の釧路に帰ってきたらしい。時間がなかったので話し込めなかったが、海のない埼玉県で海鮮丼を売る仕事はしてなかっただろうし、考えて、考えて、考え抜いた末の帰郷だったに違いない。

釧網本線で茅沼駅へ向かう。茅沼は結構遠くて、45分くらいかかった。自転車だと釧路市街との間に小さな峠を2くらい越えないとならないから、距離的には30キロくらいだけど、やる気がないときには辛い30キロだ。列車も空いていたし、輪行して正解だ。

キャンプ場の管理もしている、憩の家かや沼。日帰り温泉、売店、レストラン、宿泊施設などもある。ツーリングのライダーも泊まっているようだった。温泉はパコと同じような塩辛く、熱い温泉。450円くらいと安くて設備もそこそこ充実している。家の近所にあれば、頻繁に利用するのに・・・と思った。

温泉から出たら、ここに住んでいると思われる猫が。器用に自分で自動ドアを開けて遊びに来てくれた。

ほとんど鳴かない大人しい猫だった。

私は、湧別で食べたあのホタテフライの味が忘れられなかった。ホタテフライのことしか考えることができなくなっていた。

明日以降、あのホタテフライを食べるために、湧別に戻ることを決意した。