沖縄本島

Fourth Stage 沖縄本島編

1日目 その2 前途多難、へこみ旅

沖縄到着前に千葉県でパンクとは・・・。旅の前途多難を予想させる出来事であった。

世の中には、うまく行くはずなのに思ったように行かないことが案外多い。思ったように行かないのは、辛い。パンク修理にしてもそうだ。パンク修理は自転車メンテナンスの基本中の基本だ。しかも、自分の自転車で、自分でやったことが何度もあるのに、うまく行かない。なぜだ・・・。苛立ちが募る。

というようなことを考えながら、自転車を押して歩くこと数十分、隣の駅近くにあるイオンに到着。首都圏とは思えないほどの広い駐車場は、やはり北海道の街並みを彷彿とさせる。このあたりは何かのアンケートで、「住みたい街第一位」に選ばれたこともあるらしい。北海道みたいな自然と隣り合わせの新しい街に住んで、都心まで電車一本で通勤できることが理由だろう。

休日だというのに駐車場の端の方は車が一台も停まっておらず、同じように端の方にある駐輪場も自転車が一台もない。やはり、北海道みたいだ。余裕がありすぎる。

駐輪場を借りて自転車修理を再開する。建物の影で強風も防げて、さっきよりも落ち着いて修理ができる。そして、初心に帰ってチューブの袋の説明書きを読んでみる。

なになに・・・今までまともに読んだことがなかったが、手順があるようだ。そもそも、やはり車輪は一旦外さないとダメみたいで、ほぼ説明書き通りにやってみる。

一番、根本を間違っていたのは、「チューブをタイヤに入れてからリムに装着」しないとならないという部分だ。言葉だとわかりにくいが、リムに巻き込んでからチューブに入れようとするのは間違いで、今までこれで出来ていたのが不思議な感じ。15分くらいで修理完了。

急がば回れ、急いては事を仕損じる。今回の諺だ。

すでに、もう3日分くらい疲れたので、イオンで少し休む。普段飲まないが栄養ドリンクなどを買ってみる。安いやつも高いやつもそんなに変わらないらしいので、一番安いやつにする。時間は午後7時を回った。成田空港に着くまでは安心できないから、走行を再開して遅れを取り戻す。

北総線沿いの整備された道路を東に進むと、T字路に差し掛かる。国道464号線をずっと行っても良いのだが、松虫姫公園のあたりで北上する。前回も無意識的にそうしたのだが、「なんとなく」北上して「なんとなく」交差点を数回曲がると、また国道464号線に戻る。こうするとショートカットになる。

日曜日の夜だからか、車が前回より多い。国道と言ってもこのあたりは狭い道が続いていて、車が沢山通ると危ない。だが、街灯があったりなかったりなので、自転車のライトだけでは心細い。車が照らしてくれた方が轢かれる可能性はあるものの、視覚的には安全だったりする。

とあるサイクリングの本では、このあたりを「神社などが沢山あって風情ある道」などと紹介していた。夜だから全然わからないが、神社のようなものが沢山ある気がする。

そして、その危険極まりない「風情ある道」を抜けると成田市街へ到着する。全国的や世界的には成田というと「成田空港」が有名だろうが、こうして見ると神社が沢山ある街という気がする。初詣で有名な神社も成田にはある。そもそも、成田市はそんなに規模の大きい街じゃないのに、鉄道路線が複数あるのは、それら神社のおかげでもある。京成本線は神社目的の客を運ぶために作られたとか。

成田空港は以前も書いたが、24時間は開いていない。ただいまの時刻は午後9時。いま行っても朝6時まで待機できない。どこかで時間を潰さないと・・・。成田市内の公津の杜という駅の近くにあるイトーヨーカドーへ行く。沖縄にはイトーヨーカードーもセブンイレブンもないので、この旅、最初で最後のイトーヨーカドーだ。

だが、最初で最後のイトーヨーカドーは午後9時で閉まってしまった。はっきり言って、千葉県のことはよくわからないが、この辺になると東京のベッドタウンというほどではないのだろう。意外に閉店が早い。

近くのスーパー銭湯、華の湯に行く。通常は800円だがWebクーポンを使用すると700円になる。一応、温泉らしきものがあったが、やはり首都圏のスーパー銭湯は地方に比べて高い。

日曜の夜だから、かなり混みあっていた。イトーヨーカドーや近辺の街中には人が全然いなかったが、ここだけは混んでいた。中高年と20歳前後くらいの若い男性が多い。

お湯から上がって併設の食堂に向かう。ここで食べるつもりはなかったが、どっちみち時間を潰さないとならなかった。スーパー銭湯の食堂で食べるのは初めてだが、どんなものか。

カキフライ定食にした。スーパーの半額になったカキフライならよく食べるが、きちんとした店(?)の揚げたてのカキフライを初めて食べる。他の店と比較できないが、スーパーの半額のものよりは、すごく美味しい。

隣席のテーブルの下にエンジ色の水筒がある。誰かの忘れ物かな。しばらくして、コードレス電話を片手に持った40歳くらいの男性店員が探しに来る。「いま見てるんですけど、それらしいものはないですねー・・・」。声をかけようか迷ったがタイミングを逃す。さらにしばらくして、別の50歳くらいの女性店員が探しにくる。声をかける。やっぱり、お客さんの忘れ物だったらしい。

人は、色々なものを忘れる。

午前0時半頃、スーパー銭湯を出る。外はものすごい寒い。持っている服を全部着るが寒い。特に下半身が寒い。沖縄ではどうせ使わないからと、ウインドブレーカーのズボンは持ってこなかった。一日の中で最も寒いのは朝方だ。これからさらに気温は下がる。空港が開く午前3時半まで、どこか屋内で過ごさないと死んでしまう。せっかくだから、成田の街中に行ってみようか。成田なんて滅多に来ないしな。

首都圏に住んでいる人でも、普段、成田市に遊びに行くという人はあまりいない。少なくとも、埼玉県民にはそんな人はいない。成田駅から北東方向に成田空港があり、北西にはイオンなどロードサイド型店舗が集まったエリアがある。そこにラーメン屋の山岡屋があるというので、行ってみる。

うーん、自転車をこぐと凄く寒い。真夏の北海道の峠の下りみたいだ。寒いので押して歩く。なんだか、右足の膝の靭帯が痛む。気のせいならいいが・・・。

山岡家に到着。24時間営業なので、深夜の長距離トラックの運転手やタクシードライバー、夜行性の人などに人気があるのだろう。前にも別の店舗に行ったことがあるので、味については安心できる。

山岡家は札幌に本部があるらしい。北海道にいる時は山岡屋を全く知らなかったが、一応、北海道にも札幌に数店舗、帯広、釧路など主要都市に1店舗ずつくらいあるらしい。でも、関東の国道沿いの方がよく見かける。太麺に濃いめの豚骨系スープ、値段にしては豪華に具など、全体としては好感が持てる。いわゆる北海道ラーメンではないが、基本的には美味しいラーメンだと思う。

こういうラーメン屋にはよくあるのかもしれないが、漫画喫茶並に沢山漫画がある。私は普段は漫画を読まないが、時間を潰すために頭文字Dの漫画を読んで見る。実写版とアニメ版しか見たことがないので、初めて原作を見た。ほんとに「ガァガァガァー」とか「ギャャァー」とか、文字で走行音を表現しているんだなぁと思った。アニメ版と原作は一部省略しているがセリフが大体同じだった。

午前2時40分、店を出る。成田空港へゆっくり向かう。この時間だと、さすがに道路も空いている。国際空港の周りだから、昼夜問わず人が動いているのかと想像するのは間違いだ。なぜなら、成田空港は夜間は「眠っている」。

3時40分、検問所で身分チェックを受けてから空港に到着する。どこの空港もそうだと思うが、成田空港に自転車で来る人は少数派だ。多分、1万人に1人もいない。

自転車で成田空港に来たのは2回目だが、どこを通ったら第2ターミナルなのかよくわからなくて、右往左往する。目の前にターミナルの建物はあるが、駐車場の建物とか立体交差とかで、スンナリたどり着けない・・・。結局、かなり戻って車道の案内を頼りに進んでいく。4時にターミナル到着。

輪行の準備をして自転車を預ける。前回同様、ジェットスター利用。そういえば、少し前までは成田-那覇線や成田-札幌線には、ジェットスター以外にもエアアジアというLCCがあった。エアアジアはジェットスターとの競争に敗れ、日本の国内路線から完全撤退したのだ(記事執筆時)。

エアアジアも利用したことがあるが、機内やサービス、値段はジェットスターとほとんど変わらない。何が悪かったのか。

個人的には「エアアジア」という名前だと思う。日本は「アジア」の一国に過ぎないが、アジアというと貧相なイメージがあって、欧米的な響きのジェットスターを選ぶ人が多かったのではないか。客室乗務員のセクシーな服装やメイクには好みが分かれるところだが、自分はそんなに嫌いではなかった。

エアアジアが撤退したことで、ジェットスター派にも悪影響が出ている。競争相手がいなくなったから、値段が高くなったり、以前より予約がしづらくなった。LCCで言えば、ジェットスターは独占状態だ。東京-那覇線で言えば、あとはスカイマークがいるくらい。

スカイマークと言えば、2012年頃に那覇~宮古島までの路線を開設した。安い日は片道2000円くらいで売り出していた。私もその頃に宮古島に行ったのだが、おそらくスカイマークの宮古島路線のせいで、当時、沖縄の離島で一番人気だった石垣島では観光バブルが弾けた。宮古島は観光客だらけになったが、離島にとって、格安航空会社というのは運命を分ける重大要素なのだ。

ジェットスターの超狭い機内では、自分しか座っていない3人掛けシートの窓際が確保できた。沖縄までの3時間はゆっくり休んでいけそうだ。

Fourth Stage 沖縄本島編

1日目 その1 悪魔の16号線、ふたたび

自宅のある埼玉県某所からは、自走で成田空港を目指す。このコースは前回の北海道内陸一周編と全く同じだが、わざわざ旅行記として書くのは、この日が全日程で最長走行距離であり、悪夢の始まりだったからだ。

できれば同じ失敗は繰り返したくない。誰でもそうだろう。前回の失敗は距離を甘く見積もったことが原因で、到着時間がギリギリになってしまった。

今回、飛行機が出るのは明日の午前6時きっかり。飛行機は待ってはくれない。空港までは100Kmちょっとある。空港までは市街地を走るので民間人も多く、高速走行には限度がある。余裕に余裕を重ねて、もうアホかというほど余裕を重ねて、前日の午前10時に出発した。飛行機が出るまで、タイムリミットは20時間だ。

私は沖縄の人に「沖縄通」と言われるくらい、沖縄に何度も通った“自称・沖縄通”だ。途中から数えることをしなくなったが、10回以上は通ったと思う。その経験から冬の沖縄の気温は予想できるのだが、寒い日は沖縄の人でも靴下を履くくらい気温が下がる。荷物になり過ぎない範囲で、薄手のジャンパーなどを数種類用意した。

自転車の装備品としては、前回までの経験から、リアキャリアは必要ないと判断し、リュック一つである。キャンプはしないのでテントなどはない。

午前10時過ぎ、自宅を出発する。国道16号線だ。西から東に向かって進んでいるが、ちょうど風が押してくれる。急ぐ必要が全くないが、風が押してくれるので20~25kmくらいをキープして走る。ここ最近はサイクリングロードばかりを走っていたので、市街地はなんとなく疲れる。

しかし、追い風のせいもあって、難なく千葉県へと突入。

時々、北海道の人に「県境ってどんなふうになってるの?」と聞かれることがあるが、埼玉県と千葉県の県境には川が流れている。日本では川とか山とか海みたいな自然をベースにした県境が多いと思うが、市街地に唐突に県境があることも、場所によってはあるだろう。

自宅を出た頃は快晴だった空も、昼下がりには曇天になっていた。風の方向が変わり、小さな水滴のようなものが降ってくる。小雨だ。時間も時間で、お腹が空いてきた。たまたま近くにあった「くるまやラーメン」というチェーン店のラーメン屋に行く。関東とかの国道沿いに時々ある店だ。私は「東京(関東)のラーメンは美味しくない」というイメージがあるので、よく見る割には入ったことはない。

入口で写真付きのメニューを見る。味噌ラーメンがお勧めらしい。613円とそこそこの値段だが、写真を見ると具がモヤシくらいしかない。それがこの店のこだわりなのかもしれない、と信じて味噌ラーメンを頼む。味の好みは人によるので「微妙」としか書けないが、同じ関東にあるチェーン店でも「山岡家」の方が好きだと思った。

埼玉県の国道17号線には、「くるまや」と「山岡家」が隣接している所がある。「くるまや」は交差点にあって立地条件が上なのに、大抵、「山岡家」の方が混んでいる。

自転車を「くるまや」に停めたまま、隣にあったBig-A(コンビニ的な店)に行く。サイクリストの必携アイテム「アルフォート」やノルアルコールビール、みかんを買って、口直しをする。

店を出ると雨が止んだ変わりに、アラレが降っていた。気温が下がり、風が強くなってくる。自転車に戻って走行を再開する。少し走って、後輪に異常を感じる。空気が抜けている・・・パンクじゃないか。

沖縄では道路事情が悪いことや、自転車屋が少ないことを見込んで、出発前に予備チューブを買って持ってきていた。それに加え、前回の自転車旅行の時に北海道美幌町でパンクしたチューブを釧路市で修理したものと、合計2個ある。

パンクでは走れないので、近所に公園がないか探してみる。幸い、近くに公園があった。久しぶりのパンク修理だし、悪天候で正直めんどい・・・。

タイヤを目視で確認しても、何かが刺さったような様子はなかったし、ラーメン屋に停めている間に空気が全部抜けたというのも不自然だ。千葉県は何かと埼玉県と対抗意識を持つので、誰かが嫌がらせで空気を抜いたのではないか? という悪い考えが頭をよぎる。

試しに修理する前に空気を入れてみる。少し走ってみる。・・・意外に問題なさそうだ。行ける。「ぜんぶ千葉のせい」にしながら、そのまま国道16号線を走る。が、1Kmくらい走ると段々空気が抜けてくる。なんとなく、パンクというよりは、バルブ部分の異常に思える。バルブがおかしくなって、空気が抜けているのではないか。

この感じで1kmごとに空気を入れていると、空港到着まであと50回くらいは空気をシコシコ入れないとならない。暗くならないうちに、修理をしなくては。団地みたいな大きな建物脇にある、寂れた感じの公園を見つけた。修理をしよう。しかし、関東とは言え、強風でとても寒い。荷物の都合で沖縄仕様の薄手の格好なので、走行している時はともかく、下車しているとものすごく寒い。

手もかじかむ。半年ぶりのパンク修理なので、自分でも笑えるほど手際が悪い。あれ、どういう順番でやるんだっけ・・・。なんとかチューブは取り出せたものの、変わりのチューブを入れるのに手間取る。うまく入らない。イライラする。団地から子供連れの家族が出てきて、公園で騒ぎ出した。冷たい風を全身に浴びる。

うーん。15分くらい色々やってみるが、手が悴んだせいか、寒くてタイヤが固くなってるせいか、チューブが本当にうまく入らない。なんでー。サイズが間違っているんじゃないか? と確認するが間違ってはいないようだ。公園の掃除係の人が来る。17時半。冬なのでかなり暗くなる。まだ飛行機の時間まで13時間あるから良いが、これが夜中とかだったらアウトだ。少し歩けば北総線の小室駅があるので、面倒だし輪行してしまおうか。

沖縄に行って、明日の朝、明るくて暖かいところでやれば、必ず直せるはず。それとも、ホームセンターの看板がさっき近くにあったから、探してそこでやってもらおうか・・・。

暗くなってしまったので、とりあえず自転車を押してアルフォートを食いながら、小室駅方面へ向かう。このあたりの北総線沿いは、ニュータウンとして開発された地域で北海道みたいに人工的な街並みである。嫌いじゃない。

いま使っているチューブだって自分で装着したのだから、落ち着いてやれば必ずできる。しかし、暗闇では作業できないので、小室駅近辺で作業できそうな場所を一応探す。駅で輪行する場合を考えて、小室駅内で時刻表を確認する。

ん? 成田空港行の列車は小室駅には停車しないようだ。隣の千葉ニュータウン中央駅なら停まるので、とりあえず、隣まで移動した方が何かと良さそうだ。あそこには大きいイオンがあったはず。

自転車を押して、アルフォートを食いながら千葉ニュータウン中央駅を目指す。

その2に続く

Fourth Stage 沖縄本島編

プロローグ かんじんなことは、目に見えないんだよ

前回の旅(北海道内陸一周編)を終えて、早7か月が過ぎていた。関東地方はすっかり冬となった。北海道のように何か月も雪に覆われることはないものの、東京近郊のサイクリングロードからはサイクリストがめっきりと減った。自転車乗りにとって、基本的に冬はシーズンオフなのだ。

関東地方の平野部の場合、たまに雪が降ったとしても何日も積もるということがまずない。寒さ対策さえすれば、年間通して自転車に乗ることができる。但し、群馬など山間部は雪が積もっていたりするので、峠越えをすることは不可能。もちろん、輪行などをしたとしても日本海側や東北、北海道方面への自転車旅行は望めない。

今回は沖縄本島が舞台だ。常夏ではないものの、亜熱帯地域である沖縄は冬のサイクリングにピッタリだ。夏のサイクリング聖地といえば北海道。だが、冬のサイクリング聖地は沖縄だと思う。なぜなら、初夏(6~7月頃)の北海道と、冬の沖縄は大体同じ気温だからだ。

日中の気温が20度前後と快適なサイクリングが望める。おまけに観光客が少なくて道路事情も良いし、宿泊施設も安い。

沖縄までは前回同様、成田から飛行機輪行をする。東京からフェリーもあるにはあるが、費用や時間を考えたら飛行機ということで、迷わず飛行機輪行とした。成田から沖縄までは行きは約3時間半。帰りは追い風だから2時間半くらいの飛行時間。

※地図はイメージです

※当サイトには沖縄をテーマにした旅行記がもう1つあります。北部のジャングルやキャンプツーリングなど、よりディープな沖縄旅行記を先に読みたいせっかちな方は下記をどうぞ。

Sixth Stage 沖縄やんばる Special Touring Style