企業でのプレゼンテーションソフトのデファクトスタンダードと言えばPowerPoint(パワポ)。営業担当者やコンサル系の職種なら毎日のように使うだろうし、むしろパワポが夢に出てくるくらいだと思う。MacにはKeynoteという同類のプレゼンソフトがあるけど、世間的には知っている人は限られているだろうし、きっとパワポの存在感の方が圧倒的だ。
何かとパワポを使わされる実情
たとえプレゼンするような職種じゃなかったり、プレゼンするわけでなくても、企業に勤めていた李したらビジュアルを伴ったちょっとした資料を作る場面になった時に、まずパワポを使うように強要されることになる。上司とかに「パワポで作って今週中に提出して」などと言われる場合が多いわけだ。
デザイナーの世界だとAdobeのIllustratorやPhotoshop、ページ物だとIndesign、WebのプロトタイプならXDやfigma、sketchなどが定番のデザインツール。
しかし、それらのまともなデザインツールは一般企業のPCや、デザイナー以外の肩書の人たちのPCには一般的にインストールされていないし、ログインするアカウントがなかったりする。いや、たとえ起動できる状況だとしても、ちょっとした修正をするにもそれなりの操作スキルが必要になるからNGだ。
上司だか先輩だかよくわからない人に「わけわかんないソフト使うな」と怒られてしまうのが関の山だ。むしろ、実際にそういう職場を見たことがあるし。一般企業ではそういう実情があるから、ほとんど誰のPCにも入っているパワポなのだ。そう、もう止むを得ずにパワポなのである。
デザインツールとしての機能が前述のツール達より格段に劣るが、そんなことは構わずに一般企業の一般職種ではパワポ一択というのが実情だ。
以外とデザイナーはパワポを使う機会がない
デザイナーだったらパワポくらい一般人より使いこなせるのでは? と思っているとしたら、それは大きな誤解だ。
デザイナーと言っても色々あるが、DTPやWebのデザイナーだったら、IllustratorやPhotoshopなどの方が日常的に使うのが普通で、むしろパワポを使うことがほとんどというか、人によっては全くない場合がある。ディレクター系の職種ならまだしも、普通のデザイナーはパワポを使うことがないのだ。
むしろ、パワポを使いそうになる場合になると、細かい調整とかができなさそうだし、細かいことにこだわりたいデザイナーとしては本能的に避ける人が多いのではないだろうか。かくいう当方も、パワポで資料を作らされそうな場面になると、それがPDF書き出しで良さそうな案件なら即刻Illustratorに逃げて難を逃れる方策をとる。
使いづらそうなパワポを使うくらいなら、イラレを使った方がマシなのだ。
具体的にデザイナー経験者からしてパワポの使いにくいところ
抽象的な話ばかりだとアレなので、具体的にパワポを使って不便に感じる所をあげてみよう。
パワポの機能はバージョンによっても異なるが、記事執筆時点だと大きく分けると、PowerPoint2016などの従来からの買い切り方(企業では現在でも使用していることが多い)、サブスク型に含まれるパワポ、無料で機能限定版的なブラウザで動作するオンラインのパワポ。このうち、2016の例で取り上げるが大きな操作性の違いはないはず。
レイヤー操作が使いづらすぎる
IllustratorやPhotoshopなど平均的なデザイン、グラフィックツールなら空気のように当たり前に存在しているのがレイヤーという概念。
レイヤーとはフィルムの層みたいなもので、絵画で言えば、一番奥から順に空、山、木、人みたいな、描画における階層構造である。PCのデザインやグラフィック作成においては、非常に重要で便利な機能だが、パワポにはシンプルで使いやすいレイヤー機能が存在しない。
図形などを選択して右クリックすると「最前面へ」「最背面へ」「前面へ」「背面へ」という操作はあるが、レイヤーパネルでオブジェクトの前後関係を把握したり、操作するという基本的な機能が存在しないのだ。
パワポを日常的に使っている人はどうやってレイヤーの管理をしているのか不思議で仕方ない。デザイン系ツールでの常識が通用しないのがパワポである。
オブジェクトのロックが簡単にできない
これもレイヤーパネルがないのことが要因だけど、ある図形だけを選択したいしか、文字枠だけを移動したいという時に、背景のオブジェクトが選択されちゃってストレスフルになることが多い。
マスタースライドの機能を使ったりすれば解決できるケースもあるけど、個別にスライドごとのデザインを作り込む時には向かないし、似たようなデザインパターンで大量にページを作る用途以外にはパワポのデザイン機能は不便すぎる。
オブジェクトのグループ化がわかりづらい
グループ化はデザイン系ツールなら当たり前の機能だが、さすがにパワポでもグループ化の機能自体は存在する。
ただ、グループ化の操作や選択の挙動が微妙で、うまくグループ化できなかったり、選択をミスることが多い。すべてはレイヤーパネルがあれば、オブジェクトごとのグループ化状況が一発でわかるのだけど、実際にグループ化して動かしてみないと、ちゃんとできているかが判断できないことが多くてイライラする。
微妙にずれる、ピタッと行かないが多い
デザイナーにとって、微妙にずれたり、ピタッと行かないことほど気持ち悪いことはない。人によっては食事が喉を通らなくなるレベル。
Adobeソフトによくあるスマートガイド的なものや、吸着みたいな機能はあるけど、これを使っても微妙にずれたりするので気持ち悪い。
所詮はデザインツールじゃないということが原因だと思っている。
文字操作がワープロソフト程度
デザイナーだったら、フォントの選択はもちろん、文字同士の上下左右の間隔を1mm単位で調整したくなるが、パワポだとフォントの選択もWord方式というか、独自ルールで運用されている。
文字の間隔を調整しようにもざっくりとしたものしかできず、オートコレクトという機能で勝手に小文字が大文字に書き換えられたり、意図しないところで改行されたりする。
この仕組みを把握、覚えるだけでもストレスも溜まるし、時間もかかる。本来のデザインクリエイティブに使えるエネルギーが最小化されてしまうのだ。
余談 世の中にはパワポ専門のデザイン会社もある
人材派遣の求人でパワポ専門のデザイナーを募集しているのを見たことがあるけど、世の中にはパワポ専門のデザイン会社なんかもあったりする。パワポで綺麗なデザインを作ろうとしたら、デザイン一般のスキルはもちろん、パワポ独特の操作性に慣れる必要があるからね。
とすると、パワポでよくこんな入り組んだデザイン作るなー、と感心してしまうスライドの何割かは、パワポ専門のデザイナーが作ったやつという可能性も高かったりする。
世の中全体で考えれば、Illustratorとかよりパワポが入っているPCの方が何十倍も多いわけだから、パワポのデザインにもビジネス的な需要は高いのだと想像する。まあ、自分はパワポのデザインになんか慣れたくないけどねw