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【長崎県大村市】旅行ガイドに載らない街に2日間滞在したら“旅の本質”に気付かされた

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長崎空港から見る大村市街地側の様子

長崎県の地図を広げると、ちょうど真ん中に大村市がある。

南に長崎市、北に佐世保市という、長崎2大都市のちょうど真ん中に大村市がある。空の玄関口である長崎空港もあり、2022年に部分開業した西九州新幹線の新大村駅もある。間に位置する佐賀県が難色を示しているので、九州人が憧れる大都会「福岡」まで新幹線は直通していないものの、地理的には完全に“交通の要”だ。

だが通常、長崎の旅行ガイドブックには大村市の紹介ページは存在しない。私がリサーチした範囲では「るるぶ」にも「まっぷる」にも「ことりっぷ」にも、大村市は1ページどころか、1行も紹介されていなかった。まるで“通過されるためだけに存在する街”のような扱い。

私が大村市民や大村市出身だったら悲しい話だが、今年の夏に北海道の女満別空港近くの湖のほとりで1か月ほど過ごしたこともあり、ヨソの地域の“空港の街”に親近感を覚えるというのもあった。ガイドブックが取り上げないなら、どんな街なのか、逆に自分の足で歩いてみたくなった。

結果、この街は“語られない”のではなく、“語る言葉を持っていない人たちに見過ごされている”だけだった。

長崎空港 海に浮かぶ空の玄関口、その静かな詩情

長崎空港の展望台への行き方は少しわかりづらい

長崎空港は、日本初の海上空港。滑走路の向こうに広がる大村湾は“港”のような趣がある。

潮の匂いが混じる風が吹き抜ける。ここには、空港にしかない“出発の気配”と、港町にしかない“滞在の余韻”が同居している。空港内はコンパクトながら、地元グルメやお土産も揃っていて、旅の入口としては十分すぎるほど豊かだ。

だが、観光地としては扱われていない。“空港=通過点”という構造が、そのまま大村市の扱いにも重なる。

ガラスの砂浜 再生素材が語る、語られない街の断片

長崎空港から徒歩20分ほどで大村市街地側に渡ると、キラキラと光る砂浜がある。

「ガラスの砂浜」と名付けられたその場所は、再生ガラスを砕いて敷き詰めた人工ビーチだ。沖縄に腐るほどある人工ビーチは、海底の砂やサンゴをえぐり取って造成するというが、この場所の砂のように見えるガラス片は、キラキラと輝く。まるで宝石のように。

環境保護と演出の境界が曖昧なこの場所は、“エコ”という言葉が掲げられている。再利用、循環、持続可能性。ガラス質の物体は自然界にも存在するものの、その景色は、どこか不自然にも思える。

自然と人工、保護と演出。その間にある揺らぎ。この場所が見せる風景の本質を考えたくなった。

サンスパおおむら オンセンとゲーセンが融合した不思議空間

長崎空港の玄関口に位置する「サンスパおおむら」。その空間は、単なる温泉施設でも観光地でもない。食べて、遊んで、浸かって、語らう。生活のリズムがそのまま空間になったような場所だ。

中心にあるのは天然温泉「大村 ゆの華」。湯けむりの向こうには、カラオケ、ゲームセンター、多彩なグルメが並び、家族連れも若者も、それぞれの時間を過ごしている。公式サイトが語るように、ここは「一日中楽しめる」場所。だが、その“楽しさ”は、観光地の演出とは違う。地元の人々が日常の延長として使っているからこそ、空間に無理がない。

筆者が訪れた日は屋外スペースで吹奏楽演奏やダンスイベントが行われていた。音楽が流れ、若者が踊り、温泉帰りの家族がイベントに合流する。この混沌とした交差がサンスパの本質だ。“観光”という言葉が空転する中で、“暮らし”という言葉が静かに息づいていた。

サンスパおおむらは旅行ガイドでは語られない。だが、語られないからこそ、風景は深くなる。ここには、“見せるための演出”ではなく、“暮らしている空気”があった。

新大村駅 新幹線の玄関口なのに旅行ガイドが完全無視する駅

西九州新幹線の新大村駅は2022年に開業したばかりの駅だ。その駅舎は、「新しい街の玄関口、こころ踊るふれあいの駅」というコンセプトのもとに設計されている。空に向かって開く屋根の形状は未来への広がりと都市の発展を象徴し、ガラスの壁面は周囲の緑と街並みに溶け込むように配置されている。外壁の一部には落ち着いた色彩が用いられ、歴史的な雰囲気と躍動感が同時に表現されているという。

駅前にはスーパーがあり、生活の気配は確かにある。だが、観光地としての演出はほとんどない。広々とした駅前広場は整っているが、その広さが空白に見えるほど、人の気配は薄い。

大きな駅舎の裏側にひっそりと在来線ホームがある。改札は自動化され、駅員の姿はない。“通過されるための駅”という印象が、ここでも強く残る。新幹線と在来線の乗換駅でありながら、旅人には語られない。

それでも、新大村駅には“これから何かが始まる予感”がある。語られないだけで、語る価値は確かにある。この静けさは、空白ではなく、余白なのかもしれない。

長崎~大村~佐世保間を走るYC1系気動車

在来線である大村線や佐世保線を走るYC1系は、JR九州が導入したハイブリッド車両だ。ディーゼルエンジンと蓄電池を併用し、従来車両より燃料消費を約20%削減。CO₂排出も抑え、環境性能を向上させた。その名は「やさしくて力持ち(Yasashikute Chikaramochi)」の頭文字から取られているという。

ロングシート中心で立席スペースが多い座席設計

この車両には同じくディーゼル・エレクトリック方式であるJR北海道H100形気動車と共通する設計思想がある。大村湾沿いの区間では海が車窓に迫るが、ロングシート中心で首都圏の通勤車両のようにも思え、旅の情緒や語りの余地は、それほど多くはない。

大村市中央商店街 日常の空気が並ぶストリート

長崎県で二番目に古い商店街。アーケード街もある

大村駅前の商店街には、地元の野菜や加工品を扱う店が点在している。 観光地らしい派手さはないが、生活の匂いがする。 “観光客向け”ではなく、“地元民のための商店街”。 それでも、旅人が立ち寄る価値はある。

旅とは、非日常を味わうことではなく、他人の日常に触れることだ。この商店街は、その意味で、旅の本質に近い場所だった。語られない風景の中に、語るべき味が眠っている。

大村市歴史資料館 街の記憶を静かに掘り起こす場所

大村市歴史資料館は、観光地の演出とは無縁の空間だ。ここには、語られなかった記憶、忘れられかけた風景、そして継承されるべき声が静かに眠っている。

常設展示では、大村藩の歴史や城下町の構造、近代の産業と暮らしが淡々と語られる。派手な演出はない。だが、その静けさこそが、記憶の重みを支えている。それらは“見せるため”ではなく、“残すため”に存在している。パンフレットも静かに置かれ、語りすぎない設計が貫かれている。

この資料館は、旅人が街の深層に触れる入口となる。語られない街には、語るべき記憶がある。そしてそれを、演出ではなく記録として差し出すこの場所は、旅の中でもっとも誠実な空間かもしれない。

大村公園 白鳥が寛ぎ、城が静かに光る庭

ピンクにライトアップされた板敷櫓

大村公園は玖島城(くしまじょう)の跡地に整備された市民の憩いの場だ。春には桜が咲き誇り、夜には板敷櫓(いたじきやぐら)がピンクにライトアップされる。

だが、その光は観光地の喧騒ではなく、静かな自己主張にとどまっている。調べると、この建造物は近年になってから新造されたものらしく、昔からこの場所にあるものではないらしい。

白鳥が二羽いた。「寛いでいた」と言うには、少し違う。彼らはただ、そこにいた。公園のすみに、誰にも気づかれずに。その姿は、まるでこの街の風景そのもののようだった。語られず、演出されず、ただ存在している。

園内には、地元の人々が散歩をし、ベンチで語らい、子どもたちが遊ぶ姿がある。 観光地としての華やかさはない。だが、“暮らしの風景”としての完成度は高い。ここには、語られない美しさがある。語られないからこそ、深く、静かに息づいている。

おむらんちゃん 大村市に棲む、やさしい妖精

大村市を歩いていると「おむらんちゃん」の姿がふと目に入る。

駅前の観光案内所、大村公園のインフォメーション、市役所の窓口など、街のあちこちで「おむらんちゃん」のグッズを見つけることができる。ぬいぐるみやキーホルダー、ピンバッジなどを手に取れば旅の記憶が少しやわらかくなる。

おむらんちゃんは、大村市に棲む妖精のような存在だ。主役ではないけれど、街の空気に自然に溶け込み、訪れる人の目にそっと留まる。その控えめな佇まいが、大村市の穏やかさと重なって見える。

グッズを手に入れるのもいいし、街角で偶然出会うのもいい。おむらんちゃんがいることで、大村市は少しだけ、やさしく感じられる。

イオン大村店 消費の風景にこそ、地元のリズムが宿る

大村市には、長崎県内で2番目に大きいというイオンがある。その規模は都市部のモールに匹敵する。だが、観光ガイドには載らない。“観光地にイオンは不要”という前提があるのかもしれない。しかし、ここには地元の生活と消費のリアルがある。

フードコートで語り合う高校生、買い物をする家族連れ。この風景は、演出ではなく、生活そのものだ。旅人にとっても、地元の空気を感じる場所として機能する。語られない日常にこそ、旅の手触りがある。

旅行ガイドが語らない街には旅の本質がある

大村市は旅行ガイドが語らない街だ。

語られないことは語る価値がないこととは違う。この街には演出がない。だが、演出がないからこそ、風景は深く、生活は濃い。

すべてが“語られない”という形で、旅人に語りかけてくる街だった。

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