Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

プロローグ 幻のホタテフライを巡る20日間の軌跡

シリーズ最長、20日間に渡る自然や人々との出会いと別れ、葛藤、憤り・・・。ひがし北海道を舞台とした幻のホタテフライを巡る旅。人間の原点を見つめ直す、キャンプツーリングを新たに取り入れた、“あたらしいラフスタイル自転車旅行”。それが、ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編である。

今回は前例にないグレートジャーニーなため、珍しく出発式を開催。今までこんなことやったことない。自転車は基本的に今までと同じだが、微妙にグレードアップしている。

自転車本体は走行距離9500キロ程度、イオンで新品2万5千円のマシーン。保証期間は過ぎているが、トラブルがあればイオンに持っていけばなんとかしてくれるだろう。地方ではイオンが街の郊外にたった1つできるだけで、中心商店街をぶっ潰すほどの攻撃力がある。まさしく巨大組織だ。整備士がいたりいなかったりするのが注意点だが、攻撃力は凄まじい。

以下、パーツ詳細。

・新しい2980円のサドル(男性の大事な部分を考慮した構造)
・新しい300円のグリップ
・前後とも新品の耐パンクチューブ(パナソニック)
・後輪だけ新品のタイヤ(パナソニック パセラブラックス 700・28C)
・チェーンはシマノ(一流メーカー)HG40の新品
・3500円くらいの激安ツーリングテント
・500円くらいの激安レインコート
・気温15度まで対応可能なコールマン(一流か知らんが有名)の1780円の寝袋
・キャットアイLEDライト(キャンプ時のランタンと共用)

特徴的なのは、トップチューブに括り付けたテントだ。自転車旅行で一般的なサイドバッグやキャリアは、まともな物だと高い。2~3万もする。皆よく買うよな、といつも思う。大体、自転車本体の値段がそれくらいなんだから、私に限っては買うわけがない。それに輪行も不便で、走行感も悪いだろう。

なによりもガチガチな感じは嫌なので、100円ショップの紐を利用してテントなどを括り付けている。これが想像以上に安定していて、走行感も抜群だ。サドルバッグも金が勿体無いし、適当に括り付けるのも同じことなので、サドル後部に雨具をセットしている。ハンドルには、家にあった昔買ったけど使ってないポシェットを括り付けている。

本当は寝袋も車体に括り付けたかったが、色々テストしたところ、走行時に安定させるのが難しいので、とりあえず寝袋だけは嵩張って重たいけど、自転車の後ろに写っているリュックに入れることとした。諸般の事情で試してはいないが、この写真に写っている装備だけで世界一周の旅にも対応できる。

私は今まで「スマートな人間はキャンプなんかしねー」などと言ってキャンプを否定してきたが、今回はキャンプを取り入れる。その理由は、ずばり金がないからだ。

ひがし北海道は、日本の国土の8分の1にも相当する広い地域。だが、地元資本の老舗ホテルが多く、競争を好まない土地柄も手伝って旭川以西よりホテルが高い。ネットカフェも少ない。

観光資源は豊富なものの、富良野のラベンダー畑とか、札幌のススキノ歓楽街、函館の100万ドルの夜景のような、なんつーか、わかりやすい単純明快なスポットは意外と少ない。

また、人口希薄で失業率が高いこの地域には、金ヅルがないためか、内地からの出張ビジネスマンが滅多に訪れない。そのため、釧路市内を除いては安ビジネスホテルが存在しないのだ。

これはもう、貧乏長期旅行のためにはキャンプする以外に方法がない。北海道には一般に知られているだけで400箇所くらいキャンプ場があるうえ、大体が温泉とセットになっている。キャンプをやらない手はない。

今回の旅の舞台、ひがし北海道の地図。

ルートだが、これはかなり前から検討に検討を重ねた。道南地区は最初から走る気ないし、札幌近郊もつまらんから走りたくない。フェリーで乗りつけようかと思ったけど、時間や費用を考えたら飛行機の方が有利だったので、前回の内陸一周編と同様、成田から飛ぶことにした。日勝峠経由が新千歳空港からだと最も道東への近道となるが、あそこは道内で最もキツイ峠と言われているのでパスする。おそらく、前回と同じようなルートになると思ったが、現地の天候などの状況に応じて変えるつもりなので、あまり細かい計画は立てずに出発した。

要するに、前回とかと大体同じようなルートなんだけども、北海道は私の故郷。よくある内地の人の憧れツーリングとかではない。二番煎じ上等! これは幻のホタテフライを求める深イイ旅なのだ。

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

1日目 たのしい成田空港

埼玉県某所から成田空港までは、いつものように国道16号線を経由していく。国道16号線は大体トラブルが起きるので、トラブルにはもう慣れっこになっていた。昨年の北海道内陸一周辺では時間見積もりの失敗、沖縄本島編では後輪空気抜けトラブルが起きた。

今回は奮発して新品のチューブやタイヤを用意。できる限りタイヤ周りのトラブルを避けられるよう根回しをした。

案外、素敵な夕日。

新たな情報では、あの成田空港がLCCの早朝便のためにターミナルの一部を24時間開放しているという。早めに到着してターミナル内で夜明かしするのも可能ということだ。

特にトラブルなく、18時頃に成田市内に到着。これは大変珍しいことで、向こう10年くらいの運を全部使い切ったのではないかと心配になるほど。それからスーパー銭湯、華の湯で過ごす。次に成田市内のイオンにて食料を購入、山岡屋でラーメン。頭文字Dの漫画を少し読む。ミスは100%人間の心が生むものなんだそうだ。

成田市内でだらだら過ごし、深夜近くに成田空港敷地に到着。しかし、いつも入っている検問ゲートがLCCの新ターミナル建設工事に伴い、自転車の人が入れなくなっている。やっぱ成田空港はクソだ。案内に従うが、案内の表示がクソ過ぎて迷子になる。迂回するそうだが、空港の反対側まで行っても、それらしい入り口は見当たらない。空港建設でぶっちぎれた街、芝山まで行ってしまう。

深夜2時。迷ったときの基本、迷った場所まで戻ってみる。敷地入り口付近の関係者向けかと思われるゲートの警備員に「すいませーん」と聞くが、無線のイヤホンをしているせいか、意図的かわからないが無視される。クソが。気を取り直して、道路の反対側のゲートを管理している別の優しそうな警備員に聞く。どうやら、ここから入れて貰えるらしい。身分証明書を提示してテロリストでないことを確認して貰った後、ようやくゲートを通過する。

さすが成田空港だ。わけがわからなかった。ちょっとした知能ゲームのようで、少し楽しかったからいいけど、時間がない時だったら困ってしまうぞ。後日、この案内表示について苦情を出したところ、改善するというメールが来たので、今後は改善されると思われる。

成田空港の敷地内には立体駐車場のビルが2つあり、それぞれ第2ターミナルへの連絡通路がある。自転車の人はここを経由してターミナルに入る。

駐車場ビル内の一角で自転車を解体。24時間ターミナルが開いているとはいえ、飛行機の発着はない。割と快適。誰もいないのでゆっくり作業ができる。

ジェットスターはWEB上でチェックイン、窓際の席を確保済み。自転車を預けるだけで手続き完了。ジェットスターはWebチェックインした方が便利なのに、空港でチェックインする人が案外多い。3人掛け座席の真ん中に座っているような人は、Webチェックインではない人だろう。

代金を払うことにさえ「支払い手数料」が必要なジェットスターだが、チェックイン時の座席指定は無料。しかし、当然、窓際とか良い席から埋まっていくので、賢い人は家でWebチェックインする。

ターミナルの様子は・・・早朝のジェットスターを待っている人達で割りといっぱい。都会の駅の椅子などと違って、寝れないためについている仕切りはなく、ゴロンと横になって寝ている人が多い。いくら警備員が巡回しているとはいえ、なぜかお尻を突き出すスタイルで寝ている無防備な若い女性が多くて、変に想像力を掻き立てられる。

5時くらいになると空港で寝ないタイプの律儀な人達が到着する。しかし、寝ている派の人達がそのまま席で横になっているので、座る場所がない。立ったまま待っている人達が増える。私も立って待っていたが、寝ている人達のマナーがなっていないな、成田空港は。こんなノホホンとしてる、日本の国際空港の深夜帯に働いている警備員は、きっと仕事が楽だろう。

搭乗時間が迫り、成田を飛び立つ。

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

2日目 北広島のおじいさんと熊本のおじさん

新千歳空港に到着。自転車を組み立てる。

多少の立体交差はあるが、成田空港のようにゲートのようなものはないので、普通に標識に従えば国道に出られる。国道への道は2方向あり、ジェットスターの場合、私みたいにターミナル前を延々と横切ろうとせず、到着口のすぐ近くから出た方が早い。

JR千歳駅。高架駅で電化されているので、首都圏の駅とかと大差ない。

千歳は新千歳空港がある街で、比較的大きな街だが、北海道に来た道外の観光客には普通、あっけなく素通りされる。ローソンで立ち読みした『北海道雑学』みたいな本には、『道民は新千歳空港のことを千歳と言う』などと書いてあった。そんなバカな。私の身内の大半がそうだけど、北海道の地方部に住んでいる人なんて、20年に1回くらいしか飛行機に乗らないぞ。千歳って言ったら千歳市だ。

これは首都圏の人が羽田空港を羽田、成田空港のことを成田と言うのと同じだけど、千歳市は北海道では比較的大きな街であるだけに、千歳市と新千歳空港は別物であるべきだと思う。

新千歳空港のことをわかったふうに千歳空港と言う内地人がいる。千歳空港は過去に違う場所にあった別の空港であって、新千歳空港とは別物だ。単純に建て替えたから「新」が付いているわけではない。新千歳空港と千歳空港の違いがわからないようでは、札幌駅と新札幌駅の違いもわからないだろう。そんなんじゃ、北海道では電車に乗れないぞ。

余談だけど、「札幌駅」と「さっぽろ駅」、「新札幌駅」と「新さっぽろ駅」はそれぞれ別物だ。平仮名のは地下鉄駅だ。

札幌空港と言う人もいるが、そんなものはもっと無くて、札幌市内には道内発着用の丘珠空港がある。北海道は広くて空港が各地にあり、新千歳空港にも道内発着の便が結構ある。

札幌人の何割かは『この世には、札幌と東京を結ぶ飛行機しか存在しない』と思っているだろうが、北海道本島内を結ぶ便や、北海道本島と北海道の離島を結ぶ便も数多く存在するのだ。

薀蓄もそこそこに、国道36号線で札幌方面に向かう。この道は冷静に考えると割りとアップダウンが激しく、新千歳空港や苫小牧のフェリーターミナルに行き来するトラックが多い。

札幌の手前、北広島市にキャンプ場があるので、偵察に向かう。国道から逸れて細い道を下ってキャンプ場に向かう。

しかし、この日が休日だったからか、小さい子供を連れた家族連れでいっぱいだ。とても一人旅のサイクリストが休息を求められる場所には思えない。来た道を戻り、やっぱり北広島市街へ向かう。

北海道の大動脈、道央自動車道。英語ではHokkaido Highwayと言う。鳴り物入りで作っている道東自動車道とかの立場がない。

北広島市街に入り、住宅街のセイコーマートで100円惣菜のパスタなど、軽く昼食を買う。外のベンチで食べていると、近所に住むらしい、紫の派手なポロシャツを着た80歳のおじいさんに声をかけられる。

「遠くから来たの?」

あっさり間合いに入られた。できる。おじいさんも昼食のようで、リポビタンDとサントリー ザ・プレミアムモルツ、煙草を手にしていた。

「このへんの人ではないの?」
「さっき、東京から飛行機で来ました」
「東京か。僕は昔、東京で教師をやってたんだ。子供に嘘ばっか教えるのが嫌で辞めたけどな、ガハハ。東京の何区に住んでるの?」
「・・・いえ、本当は埼玉です」
「埼玉か。埼玉県所沢市?」

所沢・・・。埼玉に10年近く住んでいても、たった1度しか行ったことがない。自宅から20kmも離れていないが、とにかく用事がない場所だ。しかし、所沢は妙に知名度が高い。

「いいえ、○○市です」
「○○市か。昔、上越新幹線でxzcvzvzddgsrg」

おじいさんは相当な話好きだった。おじいさんの話は終わらず、富良野出身であること、東京に3年住んだが北海道に帰って来て市役所のような所で働いていた、年金がどうたらこうたら、東京から恋人を富良野に招待したが結局別の女性と結婚した・・・などという話をして頂いた。しかし、話始めてから35分たった時に、話がループしていることに気づいた。所沢から来たの? と最初の話に戻っている・・・。どこかで切り上げないと、いつまで経っても終わらない。日が暮れてしまう。

おじいさんに話を聞かせてくれた礼を言って出発する。

「どこまで行くの?」
「地元の道東まで行く予定です」
「どれくらいかかるの?」
「1週間くらいはかかると思います」

予定はあまり決めていなかったので、うまくは答えられなかった。

北広島駅の近くに行き、さっきのは軽い食事だったので、本格的な食事をもう一度する。実質的な食べ直しだ。自転車に乗っているとカロリー消費が大きいので沢山食べられる。

好物のセイコーマートのカツ丼。埼玉のスーパー、ベルクのカツ丼とは比較にならないほど美味しい。

北広島のキャンプ場がNGだったので、どうするかと思ったが、事前に調べていた情報では札幌の東側にある江別方面にも良さそうなキャンプ場があるので、そちらに向かうことにする。

ここは江別市森林キャンプ場という所。国内では名古屋に次ぐ大都市である札幌から近いこともあり、人気のキャンプ場らしかった。ダートは雰囲気を演出しているだけのように思えるが数百メートル程度。テント利用者は大人1人400円。管理棟でチケットを買い、簡単な説明を受ける。日帰りっぽい家族連れが多いが、北広島よりはマシだ。奥のほうの空いている所にテントを立て、夕食の買出しに向かう。街は少し離れた場所にある。

買出しから帰ってくると、入り口付近にさっきはいなかった50歳くらいのランドナー乗りのおじさんと挨拶を交わす。九州は熊本の方で、6日かけて舞鶴からフェリーで来たらしい。北海道の短い夏も終わろうとしている時期だけに、自転車旅の人間は少ない。キャンプ場も家族連ればかりなので、こういうシチュエーションでは自転車旅の人間には挨拶したくなる。

ちなみに、この方はどこかの大企業で役員とか顧問とかやってそうなくらいの雰囲気を醸し出しているが、実際には○×△○×△○×△(ここには書けない)。

夜になると日帰りの家族連れは撤収し、静かになる。軽く酒を飲んで、ネットカフェのブースと大体同じくらいの狭いテントの中で眠る。