Second Stage 埼玉~東北~北海道編

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

プロローグ 新しい旅へ

最初に断わっておくが、この旅は本来予定していなかったものである。ある意味、番外編だ。なにしろ、このスポーツ自転車を買って達成したかった最終目標が「新潟まで自転車で行くこと」だったから。だって、もう新潟に行ったんだから、本来はすべて終わりなのである。ゴールイン! お疲れ、自分! めでたし! めでたし! またいつの日か、お会いしましょう!! さようなら~!!

・・・だが、その新潟旅行が案外あっさり達成できてしまって、自転車のローンも残っているから元を取るべき、もっと違う旅行に行くべきだ・・・というのが旅立ちの理由だ。

この頃はまだ気づいていなかったが、自転車旅行というのは中毒性がある。旅の終わりころに、体も心も疲れ切って「二度と自転車旅行なんかするものか!」と心底思うのだが、数日して疲れが癒えたら、なぜかまだ自転車に乗りたくなってしまう。自転車中毒とでも言うのだろうか・・・。間違いない。きっと自転車には依存性がある。

いま新潟以外で行きたい場所といえば、帰省も兼ねて北海道だろう。鉄道や飛行機では何度も行ったことがある(というか生まれた場所)北海道に、自転車で人力で行けるとしたら、それは素晴らしいことだ。地震など自然災害が多発している中、万一交通機関がストップしても、自転車なら自分の力だけで行き来できる。そのための練習をしておこう。でも、それほどの規模の災害なら、道路も使えないから結局できないのでは? などという矛盾というか、適当な考えを色々としているうちに、出発の準備は整った。

大まかな地図や宿泊予定地の情報をスマホに入れて、できるだけ荷物は少なくした。ちなみにマイスマホはwifiのある環境でしかデータ通信はできない。お金が勿体ないから、通話機能しか契約していないからだ。GPSすら使えず、大した役には立たない。まだ5月で北海道は寒いだろうから、重ね着できる服装の用意だけはした。

前回の新潟旅行同様、適当な準備だけして、とりあえず旅立つことにした。

※地図はイメージです

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

1日目 デッドヒートを避けて

埼玉県から青森県までの道は、国道4号線を北上することにする。国道4号線は東京から青森まで続いている長い道路だが、現場判断で海を渡る方法をチョイスする。

私は現場主義だ。私は今でこそサイクリストだが、以前は全国各地でセミナーや講演会などのビデオ収録をする仕事をしていた。事前に会場の見取り図を入手して、必要な長さのケーブルや変換コネクタなどを用意して現場へと向かう。しかし、ケーブルを引く場所に障害物があったり、人の往来が激しかったりして、予定通りに配線できない場合が多い。何が言いたいかというと、どんなに机の上で考えていても、結局は現場こそが全てなのだ。

青森市から函館市までは鉄道とフェリーがある。青森県南部の八戸市から北海道の苫小牧市までフェリーがある。エスケープ手段としては、仙台から苫小牧までのフェリーもあるし、国道4号線と併走して東北新幹線や東北本線がある。さすが1ケタ国道というか、道のりは長いが、自転車旅行としては恵まれたルートではないだろうか。

関東以西在住の方の中には、『本州~北海道への交通手段は飛行機しかない』と思い込んでいる人が時々いるが、北海道と本州の間には世界最長の海底トンネル(青函トンネル)があって、毎日何十本もの列車が行き来している。東京で印刷された雑誌を発売日から1~2日後に北海道で買うことができたり、北海道産の新鮮な食材を東京で安く買うことができるのは、青函トンネルや長距離トラック+フェリーのおかげだ。

国道4号線をひたすら北上するわけだが、事前情報では、所々県境は峠になっているようだ。新潟までの国道17号線と違って、国道4号線にはトンネルがほとんどない。それほど険しい峠はないようであるが・・・。

埼玉から栃木県宇都宮市までは、通勤電車がバンバン走っている区間だ。関西地方で言えば、京都~大阪~神戸くらいの感じだ(多分)。埼玉県のターミナル駅である大宮駅から宇都宮駅も列車がバンバン走っているが、道路交通となると少しストレートとは言い難いルートとなる。埼玉県道3号線が大宮駅~栗橋駅付近まで東北本線と併走しているが、県道3号線はあまり自転車にとって走りやすい道路ではない。車道を走っていると、肩スレスレくらいを大型トラックがすり抜けていく。歩道は歩道で、でこぼこしていたり、途切れていたりして走りにくい。歩行者や一般の自転車も多い。よくある、トラックとかの物流基地が多い、大都市郊外の雰囲気だ。

宇都宮には数年前にも軽快車で行ったことがある。しかし、同じくらいの約100Kmを走る国道17号線経由で群馬県前橋市に行く時よりも、ずっとずっと疲れる。

そのため、今回は距離的には遠くなるが、国道16号線から春日部方面に走り、国道4号線で北上する。国道16号線は関東地方のベッドタウンを走る環状道路で、このあたりではバイパス的な役目をしている。街のド真ん中を避けているので、首都圏では比較的走りやすい。国道4号線で左折、宇都宮へと向かう。

途中のBig-A(24時間営業のコンビニ的なディスカウントスーパー)で飲み物や食べ物を補給する。宇都宮で宿泊する予定なので、今日はたっぷり時間をかけて旅を楽しむ予定だ。どうせ、北海道までは遠い。

国道4号線は県道3号線と比較にならないほど走りやすい。道路が広いうえ、交通量も少ない気がする。やはり、大宮方面から宇都宮方面に向かう車の多くは、距離的に短い県道3号線を経由するのだろう。大宮からだと、国道4号線経由だとかなりの回り道になる。だが、私は安全と快適を優先させた。急がば回れ。一種のポリシーだ。

埼玉県と茨城県の県境に差し掛かる。なぜ茨城県? と思われる方に説明すると、東北本線(通称 宇都宮線)にも一駅だけ茨城県の駅がある。古河駅だ。地図で見ればわかるが、古河だけ西側にピョンと出ているのだ。茨城県の県庁所在地である水戸市からは相当遠いし、古河を埼玉県や栃木県の街だと思っている人もいる。まぁ、とにかくちょっとだけ茨城県を通って、栃木県に向かう。

古河のイオンでスポーツドリンクを買う。一番安いベストプライスというプライベートブランドの2Lのスポーツドリンクを買う。「遺伝子組み換えトウモロコシを使用しています」などと書かれているが、あまり気にしない。よく知らない人からすると、サイクリングは健康的なスポーツらしい。だが、市街地を走るサイクリストは、発がん性物質である排気ガスを吸い続けることになるし、常に命の危険にさらされている。

スポーツドリンクを1L飲んで、500mlをドリンクホルダーのペットボトルに移し、残り500mlは荷物になるがリュックに入れる。水分は重要だから、荷物になっても仕方がない。

大宮から前橋までの国道17号線では、常にロードサイド型店舗がぎっしりなのと比べると、栃木方面の100Kmは少し寂しい。が、この寂しい感じが時に良かったりする。

東北新幹線の高架線を見ながら北上していく。午後3時過ぎ、宇都宮市に入ったあたりで食事にする。例のカビの件で騒がれたばかりの、丸亀製麺で釜玉うどんを食べる。人間だって細菌だらけだし、個人的にはカビがちょっと生えたくらいじゃ別に気にしない。客が全然いないので、一人だが小上がりで寛がせて貰う。かるく冷房が効いてきて、住んでもいいくらい丸亀製麺は快適だ。

丸亀製麺を後にして、ゆっくりと宇都宮市街へと進んで行く。私は基本的に、路面が見づらくて危ない夜間走行はしない主義だ。日が暮れたら走らない。だが、予定より早く着いたので、久しぶりに宇都宮駅付近の散策をする。宇都宮は街づくりにおいて、自転車に力を入れているようで大変よろしい。宇都宮駅前に大規模な無料駐輪場(一定時間まで)がある。自転車を停めて、付近をふらふら数時間。

宇都宮は餃子が有名だ。テレビの企画で餃子像などが作られたこともある。調べたことないが、コンビニの数と同じくらい餃子屋がある。

日本には餃子屋なんてものが存在しない地域も多いが、餃子屋は居酒屋も兼ねている店が多い。何の変哲もない20代半ばくらいの大人しそうな女性が仕事帰りに餃子屋へ寄る。店の一番端の席で、枝豆、ビール、半ライス、餃子という、ほろ酔いセットを一人で食べているのだ。

あまり他県では想像できないが、栃木では餃子屋が女子会や接待などで使われる。餃子食べていると女性は声が大きくなるのか、栃木の女性がそうなのかはわからないが、餃子屋にはハイテンションの女性が多い。

私は基本的にブレない性格なので、宇都宮に行った程度のことでは餃子屋に立ち寄ることは滅多にない。しかし、餃子を除くと意外に市街地に飲食店が少なかったりする。それでもラーメン屋などはある。飲食店のウィンドウショッピングをしながら、適当に時間を過ごす。平和だ。

午後8時くらい、自転車で再びネットカフェがある郊外へ。車社会の北関東を代表する都市だけあって、ロードサイドにネットカフェが何店舗かある。明日また北上することを考えて、なるべく北にある店舗を目指す。ふらふらしてただけで、結局、夕食がまだだったため、スーパーのイートインコーナーで「すみれ」のインスタントの味噌ラーメンを食べる。札幌の本店でも何度も食べたことがあるが、インスタントラーメンではかなり美味しいラーメンで結構好物。

夜は走らない主義とか言いながら、すっかり付近は真っ暗闇だ。道路の左側の歩道をゆっくり走っていると、40代くらいのクロスバイクに乗った男性が逆走の車道から歩道に移ってこようとする。侵入角度が浅い。スピードも速すぎる。案の条、タイヤを滑らして派手に転倒する。自転車と男性が弾き飛ばされて痛そうだ。男性は自分の心配よりも自転車の心配をしているようだった。目の前で転倒したサイクリストを見て、夜間走行は危険なものだと改めて思う。

少し道に迷ってから、その日の宿となるネットカフェに到着。明日はどこまで行こうかな・・・などと考えているうちに夢の中。

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

2日目 南東北エリア初進出

宇都宮市内のネットカフェから出発。本当はちゃんとしたベッドでないと眠れない性質だが、サイクリング疲れで割と眠ることができた。午前4時頃、外の世界は、だいぶ明るくなってきていた。

昨晩、暗闇の中迷った道で、また迷う。宇都宮市街地の北部は道路が高速のインターチェンジみたいになっていて、土地勘もカーナビもないと、どこに進んだらいいのかよくわからない。2Kmくらい違う方向に進んで、やっぱり引き返して、福島県方面に向かう道を見つける。

道はとっーても広く、路面状態が良くて走りやすい。車も少ない。早朝のサイクリングは快適だ。宇都宮以北を自転車で走るのは初めてだが、ひたすら国道4号線を北上するだけなので、道に迷うことはないだろう。

今日の宿は福島県郡山市にビジネスホテルを予約してある。チェックインは午後3時からだから、それくらいに着けば良いだろう。今日もゆっくり人生を楽しもう。人生などと大げさに思えるかもしれないが、生まれてから死ぬまでの間が人生だ。この自転車旅行も、人生の一部であることは間違いない。

国道を時速30Km前後で走っていると、道路に散らばったガラスの欠片を踏みそうになる。新潟でも大きい道路ではよくあったが、自動車のライトのカバーが破損したものや、酒の瓶が散乱したものが道路に散らばっていることが時折ある。クロスバイクのツルツルしたタイヤでこれを踏んでしまうと、パンクは免れない。新潟旅行でそれなりにタイヤがすり減っているから、パンクの危険度は高い。走行中は前方に加えて、路面も常に見ている。常に神経を尖らせているので、長時間走るのは精神的に結構疲れる。

ちなみに、パンクに備えてパンク修理の工具一式と、予備の交換用チューブを1つ持ち歩いている。市街地ならともかく、山の中でパンクしたら自分で何とかするしかないからだ。パンク修理はそれほど高度な作業ではないが、タイヤからチューブを取り出して、パンクの箇所を探して穴を埋めて、またタイヤの中にチューブを戻す・・・つまり、そんなに楽しい作業ではないから、できればパンクはしたくない。パンクが好きな人は滅多にいないだろうけど。

サイクリストなら誰でも羨むであろう、走りやすそうな道を走っている。新幹線で言うと那須塩原駅の近辺で、栃木屈指のリゾート地帯(多分)だ。遠くに「なす岳」を見ながら、北へ向かう。いやぁ、本当に走りやすい。

しかし、走りやすい道路も長くも続かず、この日最大の難所となる栃木と福島の県境の峠がもうすぐ待っている。東北新幹線は一気にトンネルで抜けてしまうが、暑さも手伝って、まぁそんなに急ぐ必要ないからと所々、自転車を押して登る。

峠を越えると福島県だ。以前、車で東北地方を回るような仕事をしていたが、白河の街に来るのは何年ぶりだろうか。国道沿いに大きなイオンがある。自転車で国道ベースで旅をしていると、本当に色々なところでイオンを見かける。しかも、どこも賑わっている。茨城県の水戸市のように、昔からの市街地は寂しい一方で、郊外のイオンは若者が大勢集まるような、一大レジャースポットと化しているところもある。

一企業が街を支配しているような様はあまり好きではないが、安価に食料を調達できて、イートインスペースもあって、トイレも綺麗で、自転車コーナーもあって、しかも国道沿いにあって、遠くからでも目立つ・・・と良いこと尽くめだ。自転車旅行でも大変便利なのである。一企業が(以下略)。

午後2時ころ、郡山市に入る。福島県の県庁所在地は福島市だが、郡山市の方が東京には近く、新潟方面とのアクセスが良い。郡山出身の知人が昔言っていたが、郡山が福島県で一番都会だと言う。

郡山も何度が来たことがあるが、自転車で走ると街の構造が手に取るようにわかる。鉄道というは、基本的に街と街を結んでいるものだが、道路交通というは街そのものの血管みたいなものだ。自転車は血管の中を進んでいく。

午後3時前、予約していたビジネスホテルに到着。隣のスーパーで食料と酒を買い込む。朝早かったのと、2日分の疲れを癒すため、早めに眠る。