
画像はイメージ
ストックフォトとは広告やWeb、書籍などの制作会社に所属するデザイナーなどが、持ち合わせの素材がなかったり、カメラマンに発注する予算や時間がない時に、あらかじめ撮影済みの素材を利用して対価を貰うためにストックしてある素材のことである。写真に限らず、動画、イラストなどもある。
拙者はストックフォトを買う側でもあり、売る側でもある。この界隈には15年以上の付き合いがあるから、昨今の栄枯盛衰について語る、いや嘆くに相応しいと勝手に思ってみる。
Web制作現場でのストックフォトの利用シーン
Web制作現場においては昔はPIXTA(ピクスタ)、今はAdobe Stockが使われることが多い。
ここ10年くらいに勤めた企業だとAdove Stock一択で、どうしても使うべき素材がない時にPIXTAが使われる程度だった。
多くのWeb制作などの現場ではPhotoshopやIllustratorなどを使うために、Adobe Creative Cloudを契約していることが多いが、Adobe Stockは同じアカウントで便利に使えるというのがAdobe Stock一択になっている大きな要因だろう。
企業だと支払いや契約関係があるから面倒がないし、写真もイラストも動画も、ワールドワイドなAdobe Stockの方が素材が高品質で使いやすい気がする。
制作現場でストックフォトが使わる理由
企業にもよるがWebページなどの制作においては、そもそもが短納期で低予算の場合などは大体はストックフォトなどの素材を使うことになる。
個人的な経験では名の知れた有名媒体などで、提携しているカメラマンやイラストレーターがいる場合以外は、当たり前のようにストックフォトが使われる。
この界隈にいて目が肥えて来ると、企業のサイトなんかを見ていても「これあの素材サイトの素材使っているな」とかわかるようになる。
オリジナルのように見えて、世の中のWebサイトの画像は似たような(むしろ全く同じ)イメージ画像が使いまわされている。
まず定額制が全てを衰退させた
今から10年くらい前だろうか。ストックフォト業界に定額制という価格崩壊が起きた。
日本のストックフォトというよりは、Adobe Stockなどの海外大手が定額制プランが基本だから、その流れを受けてのことだと思う。日本の制作現場でも浸透していて世界最大手と思われるAdobe Stockは2017年の段階で単品販売を終了、定額制プランのみとなったのだ。
定額制がなかった頃だと、1枚の写真が売れると解像度にもよるが2~4千円くらいは本人に手取り収入があった。もちろんストックフォトの運営会社もピンハネするが、それでもこの金額だったのである。
フィルム時代のストックフォトだと何万円とかだし、フィルム時代からやっているような格式の高いストックフォト会社だと今でも同じくらいの金額かもしれないが、1か月に何十枚も売れると「ストックフォトだけで食べていけるのでは」という幻想を抱く場合もあっただろう。
ところが、ストックフォトの定額制というものが当たり前になってから、この幻想を抱く人は激減したと思われる。週刊誌が主婦の稼げるバイトとして取り上げたストックフォトというパーティーは終わったのだ。
定額制だと売れても売れても小銭しか儲からない
ストックフォトを売る側からすると、定額制は売れても売れても全く儲からないのである。
これはPIXTAに限らず、最大手と思われるAdobe Stockにも言えるのだけど、定額制だと1枚の写真が売れても高くて数百円か、場合によっては100円にも満たない数十円とかの嘘みたいな金額しかクリエイター側は儲からないのである。
運営者側からすると圧倒的な薄利多売。クリエイターにとっては、よほどじゃないと撮影時の苦労や出費、技術、機材代などの割に合わない。
薄給でフルスピードかつハイクオリティな制作物を作るように要求されるブラック制作現場では、Adobe StockにしてもPIXTAにしても定額制プランに加入していて、同じ部署や会社で一つのアカウントで管理しているため、99%は定額制で購入されるのである。
定額制を使わずに購入される場合なんてのは、ストックフォトなんて普段使わないけど、1枚だけ何らかの事情で必要になったというレアケースの人だけなので、1枚単位で買われることはまずない。
ぶっちゃけた話、定額制が当たり前になってからストックフォトの売り上げは10分の1以下になったという素材販売者が多いのではないだろうか。
素材作成はもちろんだけど、ここまで売り上げが下がるとストックフォトは趣味と割り切ってもコスパが悪すぎるから、もうやらない方がマシという判断になるのが正常だろう。
単純に競争相手が増えたという要因もある
15年くらい前だとストックフォトの販売に適したクオリティで撮影できる撮影機材は、デジタル一眼レフ一択という感じだった。
PIXTAにしても昔はコンパクトデジカメで撮影した写真は使用不可だった気がする(うろ覚え)し、ノイズが多くて審査で跳ねられる場合が多いと思う。
スマホが登場しても最初の頃はスマホで撮影した素材は登録不可だった気がする。
さすがに時代が進むと機種や被写体にもよるが、スマホと一眼レフの画質に差がなくなってきたので、今はスマホ撮影でも登録できると思うが、素材撮影の敷居が下がったことでライバルが増え過ぎたというのもあるだろう。
最近だとAI生成の画像もあるし、ストックフォトが制作現場で使われるシーンを考えても、AI生成みたいな抽象的なイメージの方が好まれるというのもある。上司とか上の方針で「いかにも買いました」って画像はNGになる場合もあるけれど。
ストックフォトで需要のある素材はリスクが大きい
ところで、ストックフォトで需要のある素材というのはどんなものか知っているだろうか?
制作現場などで買う立場になるとわかるが、企業サイトなどで使われる素材の種類というのは実は限られている。
スーツを着たビジネスマンの写真であったり、オフィス内の様子だったり、ほぼほぼ「人物」の写真である。
人物以外で多いのが抽象的なイメージイラスト。Adobe Stockの方が種類が豊富というか、豊富過ぎて選ぶのが大変なくらいなのだけど、ストックフォトで売れる素材というのは人物とイメージイラストなのである。
田舎の地域密着型の個人商店とかより、IT企業とかWebサービス系の企業の方がWebサイト制作に力を入れていることが多いので、短納期で頻繁にLPや新規サイトを作ったりするためにストックフォトが使われるのだけど、時流もあると思うが、AppleとかGoogleっぽいデザインの、いかにも海外クリエイターが作ったようなイメージイラストやCGが選ばれる傾向がある。
というか、企業でデザイナーとしてストックフォトを選ぶ立場の時は、そういう画像を選んでいた。できるだけ上にNGを出されないような画像を選ぶ必要があるから、選ぶ側も大変なのだ。
本記事ではイラストについては言及しないが、人物の場合は販売するためには書面でモデルリリースというものを用意しないとならないし、この界隈のことをよく知っておかないと権利関係でトラブルになる場合もある。
有名観光地や有名建築物などの写真も需要があるが、プロパティリリースと言って被写体の許可が必要な場合も多いので、数百円のためにトラブルを抱えるのも割に合わないであろう。
許可がいらないような自然の風景だと、よほどのクオリティや珍しい場所でないと、まず売れないと思った方がいい。
無料素材サイトも人気があるのも売れない要因
個人だとかで本格的にストックフォトを買うつもりはないという場合は、写真ACなどの無料で使える素材サイトもある。
広告収入などで売る側には多少の利益が入るようだけど、買う側からしたら無料で済むなら上司とかに相談する必要もないし、ちょっとした写真なら十分ということになるであろう。
ストックフォト会社はAIに素材を提供して儲けている
素材を販売する側からすると全く貰からないストックフォトだけど、運営会社はどうやって儲けているかというと、AIの運営企業に機械学習の教材用に画像を提供しているらしい。
PIXTAの場合は拒否する設定もあるが、この15年くらいで会社がものすごく大きいなっているわけでもないし、財務を見てもそれほど伸びているわけでもないようである。
素材販売の売り上げが下がった分を別の方法で補填しているイメージだろうか。
AIにも関わりたくないし、趣味レベルの小遣いと考えて割に合わないので、個人的にはストックフォトはオワコンだと思ってしまう。
久しぶりに管理画面で編集したら、サーバーが重い上に機能的にユーザビリティが悪くて疲れてしまった。技術的な部分もあるが、販売終了するのに30日かかるとか販売者のこと何にも考えていないのはどうなんかと思う。自分はもうPIXTAでは売る気はないけれど。
どんな業界にも栄枯盛衰はあるけれど
技術の進歩や時代の進歩で、ほとんどの業界は移り変わっていくものだと思う。
自動車が実用化されれば、それまで主流だった馬車の業界は衰退するし、フィルムカメラからデジカメやスマホになるとフィルムの業界が衰退する。写真用のフィルムは今でもニッチな高級品として一部が販売されているが。
Adobe Stockをはじめとした高品質で低価格な海外大手のストックフォトが台頭したことで、売る側としては“オワコン”になってしまったのが現在のストックフォトだろう。いまや月に100枚~1千枚くらいは売らないと小遣いにもならないのだから。
審査は緩いがリスクが高いPIXTA
話ついでに、素材販売者から見るとPIXTAとAdobe Stockは登録時点でかなり違いがある。
販売者目線からすると衰退しきった今から新規に売ろうと考える人はそうはいないと思うけれど、まともなカメラの腕や素材撮影のセンスがあれば、100枚申請したら95枚くらいは審査に通るイメージなのがPIXTAである。
明らかにブレてたりタグの付け方とか根本的に間違ったりしてなければ、素人でも容易に売ることはできるだろう。
人物の場合はモデルリリースが必要になるが、神社とか建築物などに必要なプロパティリリースはなくても普通に審査に通るのは、よくよく考えると高リスクであるとも言える。
こんなふうに、素材を使う側は緩々の審査で販売されている素材だと思った方がトラブルがないであろう。
審査は厳しいが売れても儲からないAdobe Stock
定額制を当たり前にしたマーケットリーダーなのがAdobe Stockであるが、販売する側からするとPIXTAより5倍以上は審査が厳しい。
訴訟社会のアメリカ企業がやっているからというのもあるが、使う側からすると審査が厳しいから絶対安心というほどではないから注意は必要である。
まぁ、カメラマンやイラストレーターに発注するより相当に安上がりなのがストックフォトだけど、安かろう悪かろうでリスクが隣り合わせなのは知っておく必要があるだろう。