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ゴールデンカレーがカレールウの最適解で、今どきのチャラい他のルウとは格が違う理由

スーパーの棚を眺めていると、最近のカレールウは「コクあります」「まろやかです」「バター香ります」「欧風です」といった方向に寄っている。

甘味と乳脂肪で濃厚さを出し、誰でも食べやすい味に寄せた現代的なタイプだ。それ自体は企業の戦略として悪くないが、カレー本来の魅力であるスパイスの香りを楽しみたい人間からすると、どうしてもチャラく思えてしまう。味が濃いだけで香りが弱く、本来的なカレーとしての魅力が薄れているからだ。

こうした濃厚な欧風路線が主流になったのは1990年代以降で、家庭用ルウが「子供でも食べやすい甘口~マイルド系」に寄っていった結果でもある。だが、その流れの中でも一貫して香りで勝負する姿勢を崩さなかったブランドがある。それが「S&B ゴールデンカレー」だ。

ゴールデンカレーはスパイスの香りを日本にを持ち込んだ革命児

ゴールデンカレーが発売されたのは1966年。当時の日本のカレーは、まだ「とろみの強い洋食寄りのカレー」が主流で、スパイスの香りを前面に出す家庭用カレールウはほとんど存在しなかった。

S&Bは日本で初めて国産カレー粉の製造に成功した会社であり、スパイス文化を家庭に広めたパイオニアでもある。そんなS&Bが「家庭でもスパイスの香りを楽しめるカレーを作ろう」として生み出したのがゴールデンカレーだった。

つまりゴールデンカレーは、日本の家庭にスパイスの香りを持ち込んだ最初の本格派カレールウと言っていい。

ゴールデンカレーは「香りで食べさせる」数少ないルウ

ゴールデンカレーが他のルウと決定的に違うのは、スパイスの香りを主役に据えている点だ。

最近の濃厚系ルウが甘味やバター感を前面に押し出すのに対し、ゴールデンカレーはクミン、コリアンダー、カルダモン、クローブといったインド系スパイスがしっかり立ち上がる。鍋から立ちのぼる香りだけで「カレーを作っている」という実感が湧き、香りの輪郭がはっきりしている。

この香りで食べさせる姿勢こそ、本格派に支持され続けている理由だ。

ルウが軽いから具材の味がちゃんと生きる

濃厚系ルウは小麦粉や油脂を多く使うため、ルウそのものの存在感が強く、玉ねぎの甘味や肉の旨味が埋もれてしまうことが多い。どれも似たような味になりがちだ。

それに対してゴールデンカレーは、小麦粉の重さが控えめで乳脂肪の主張も弱く、具材の味が前に出る。玉ねぎをしっかり炒めれば甘味が立ち、肉を焼き付ければ旨味がルウに溶け込む。素材の味が主役になる構造で、家庭料理としての完成度が高い。

チャラい濃厚系ルウは「味が濃いだけ」で香りが弱い

最近のルウはパッケージからして「濃厚」「欧風」「バター香る」といった方向に寄っており、誰でも食べやすく子供にも好まれる味だ。

しかし、スパイスの香りが弱く、本来的なカレーとしてはベクトルがずれている。濃厚さを追求するあまり、香りの立ち上がりが犠牲となり、「カレー味のシチュー」のような方向に寄ってしまう。ゴールデンカレーはその逆で、スパイスの輪郭がはっきりしており、香りが皿全体を引っ張る。

ゴールデンカレーは「改造しやすい」万能ルウ

実は、プロや料理好きの間では「ゴールデンカレーはブレンドのベース」と言われることも多い。

本格派の人ほどゴールデンを選ぶのは、スパイスを追加させる伸びしろがあるからだ。クミンやコリアンダー、ガラムマサラを少し足すだけで、家庭用ルウとは思えないレベルの本格カレーに化ける。

逆に、今どきのチャラい濃厚系ルウは、スパイスを足すと味が破綻しやすい。ゴールデンは素体として優秀で、料理としての自由度が高い。

価格が安定していて品質のブレが少ない

ゴールデンカレーは値段が安定しており、ロットによる味のブレも少ない。

どこでも買えて、毎回同じ味が出るという信頼性は、家庭料理において非常に重要だ。特にスパイス系の料理は香りのブレが味のブレに直結するため、安定性は大きな強みになる。

ゴールデンカレーは本格ルウ最後の砦

甘さや濃厚さでごまかさず、スパイスの香りで勝負する。具材の味を生かす方向性であり、家庭料理として気軽に買える。そして、スパイス追加で本格インド寄りに改造する余地もある。

1960年代から半世紀以上、香りを主役にし本格派の姿勢を守り続けてきたゴールデンカレーは、今どきの「コクがすごいです」「濃厚です」「バター香ります」「欧風です」系のチャラいルウとは、そもそも目指している方向性が違う。

カレーを香りで食べたい人にとって、ゴールデンカレーはやっぱり最適解なのだ。

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尾道レモン塩以外の「ご当地塩」は実際には使い道がほぼ存在しない

観光地に行くと、最近はどこにでも「ご当地塩」が並んでいる。

その土地っぽいフレーバーをまとった商品が棚を埋め尽くすが、実際のところ、中身は普通の塩に余計な風味を足しただけの代物だ。

そして、こういう塩を買ったとしても、家に持ち帰るとほぼ使われることはない。理由は簡単。日常の料理に必要な要素がひとつもないからだ。

各地のご当地塩の例

観光地でよく見かけるご当地塩には、それぞれ「買いたくなる魅力」と「家に帰ると使われない理由」がセットで存在している。ほとんどの都道府県に存在すると思われるが、その例を挙げてみる。

昆布塩(北海道)

昆布の風味が効いているのはいいが、実際は和食にしか合わなくて使い道が限定的。

ハイビスカス塩(沖縄県)

沖縄らしい鮮やかな赤が目を引くのに、香りと味が邪魔で使い道がほぼ存在しない。

海老塩(三重県)

海老の風味なのはいいが、そのせいで合わせられる料理が限られるのがネック。

明太子塩(福岡県)

もはや通常の塩というより、おにぎり専用という割り切り型。

ご当地塩の9割は観光地のテンションでしか成立しない

ご当地塩は、旅行中のテンションに寄生して売られている。非日常の空気、旅先の高揚感、SNS映え、パッケージの可愛さ。こうした外部要因が価値のほぼすべてを占めている。

しかし、家に帰った瞬間に旅先テンションという魔法は解け、「普通の塩の方が美味しいし使いやすい」という当たり前の事実が立ちはだかる。しばらく経つと、ご当地塩は料理の邪魔をするか、使い道が限定される“いらない存在”であることが浮き彫りとなる。

尾道レモン塩だけが例外である理由

そんな根本的課題を抱える“ご当地塩界隈”で、尾道レモン塩だけは別格だ。

これは単なる観光地向けの商品ではなく、日常の調味料として成立している唯一のご当地塩である。レモンの酸味が軽く、料理の方向性を壊さず、肉、魚、野菜のどれにも合い、和食にも洋食にも馴染む。

普通の塩の延長線で使える合理性がある、唯一のご当地塩だ。他のご当地塩が「旅行の思い出」で終わるのに対し、尾道レモン塩だけは「生活の味」に昇格できる。この差は圧倒的で、埋まることはない。

尾道レモン塩をAmazonで買う

普通の塩が万能であるという現実

そもそも、塩は味覚の基準点であり、どんな料理にも合い、余計な風味がなく、失敗しない。

変わり種塩は、この基準点の強さには勝てないのだ。だから、尾道レモン塩以外のご当地塩は、「観光地で買った瞬間だけ存在する幻」と言っていい。観光地で買うのは旅の思い出にはなるが、キッチンで生き残るのは尾道レモン塩だけで、それ以外は棚の奥で眠る運命にある。

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20年ぶりに東京駅で再会した「カレーショップ アルプス」は昔と同じ姿で今も鎮座していた

さすがに値上げの時代だけに値上げはしたけどそれでも安い

俺が二十歳そこそこのまだ可愛かった頃、東京駅八重洲口の雑居ビルに入っている会社に勤めていたのだが、その頃よく通っていたのが八重洲地下街の「カレーショップ アルプス」だ。

あれから約20年、ヤエチカはすっかりリニューアルされ、飲食店も入れ替わりが激しい業種だから、正直、アルプスなんてとっくに消えていると思っていた。ところが、まだそこにあった。看板も雰囲気も、記憶の中の20年前の雰囲気のまま。

カレーショップ アルプスとはどんな店か

東京駅の八重洲地下街に1969年から店を構える、いわゆる昭和系カレーショップだ。

立地は東京駅直結という超一等地にもかかわらず、価格帯は300〜600円台が中心という驚異的な安さで、半世紀以上にも渡り、この界隈のサラリーマンや旅行者に愛されてきた。店内はカウンターが連なるコンパクト設計で、回転率重視になっており、落ち着いて食事をするというより、サッと入ってサッと食べるための店だ。

味は家庭的でクセがなく、スパイスの主張も控えめ。具材はシンプルで、カツやコロッケなどの揚げ物を組み合わせる昔ながらのスタイルが中心。特に「東京駅でこの価格」という点が強い支持を集めている。

ヤエチカのテナントが頻繁に入れ替わる中でも生き残っている数少ない老舗であり、変わりゆく東京駅の中で変わらないものとしての存在感を放っている。

「普通のカレー」だがそれでいい

570円のカツカレーは普通のカツカレーの味

懐かしさに吸い寄せられるようにカツカレーを注文した。値段は570円。さすがに20年前よりは上がっているだろうが、昨今の値上げラッシュを思えば、むしろ安いとすら感じた。

アルプスのカレーは良くも悪くも「普通のカレー」だ。

カレー専門店でありながら、家庭的な味でスパイスの個性を主張しない。具材は控えめで肉はやや固いし、量も多くはない。だが、東京駅直結の地下街でこの価格帯は、今となってはほとんど幻だ。

全国各地でカレーを食べ歩くほどではないが、新潟のバスセンターのカレーや、釧路のインデアンのような「お気に入りカレー」がある身としては、アルプスのカレーに特別な味の感動はない。

それでも「ここにあってほしい店」という意味では唯一無二だ。

昭和感が残る店内は狭いが、それでも愛されている

アルプスの店内はお世辞にも広いとは言えず、昭和感が強く、混雑時間帯は落ち着かない。

それでも「安い」「早い」「東京駅で食べられる」という、昔の牛丼のキャッチコピーのような魅力が勝っている。牛丼が280円だった10年ほど前は、日中のタイムサービスのコロッケカレーも280円だった気がする。

20年ぶりに訪れて思ったこと

味の記憶がどうこうではなく、「まだここにある」という事実そのものが嬉しかった。

東京駅周辺は変化のスピードが速く、新しい店ができては消え、地下街の顔ぶれはすぐ変わる。そんな中でアルプスのような昔のままの店がひっそりと残っていると、自分の20年前の記憶まで守られているような気がする。

カレーの味は普通。だけど、この店が持つ価値は普通じゃない。