自転車

First Stage 埼玉~新潟編

2日目 その3 爽快! 海を目指してダウンヒル

ヒャッホーイ! 自転車での関東脱出がこんなに心地よいものだと思っていなかった。誰もいないから恥ずかしくないが、「ヒャッホーイ!」とか叫びながら国道を進んで行く。

手前の道路が国道17号線で、奥にあるのは農地の上を走る上越新幹線の線路だ。右も左も、遠くにも山が見える景色は、北海道と近いものがある。首都圏に住んでいると景色に山が見えないので、パッと見で景色が違う。こんなことに感動する。

峠を新幹線で超えたわけだが、越後湯沢から海側の新潟市に至るまで、ほぼ下り坂である。特に越後湯沢付近はかなりの下り坂で、時速30Kmオーバーで爽快に進んでいく。ほとんど漕がない。新幹線や普通列車でも景色のよい区間だが、自転車だと何も遮るものがないので、さらに爽快だ。

途中、小出付近で休憩を取る。付近のセブンイレブンで昼食を買い、魚野川を眺めながら休む。

私は外で食事をするのが好きだ。レストランで食べるよりも安く済むし、他の客とか店員さんとかが気にならない。それなりのレベルの店だと、食べ終えたものから食器をわざわざ片づけたりしてくれるのだが、そういったサービスが好きじゃない。食券制の店は文字通り機械的過ぎるし、後払いの店だと注文してから金を払うまで間は一時的に借金状態になるわけだから、支払義務が生じる。レストランとは自由とは程遠い空間なのだ。

すでに今日はかなり走った気がする。どこまで行けるだろうか。長岡がいいところだろうが、無理をすれば本州日本海側最大都市である、新潟市まで行ける気がしないでもない。そう、無理をすれば・・・。

休憩を終えてから、また走り出す。まだまだ山中と行った雰囲気で、ところどころ小さな峠のようなものがある。中越地震で修復した結果、本来より断面が狭くなってしまったトンネルがあったりした。

自転車に乗っていると風で目が乾く。何気なく目を擦った時にコンタクトがずれてしまい、近くのスーパーでコンタクトを入れなおす。目が見えないと走れないので、今度から目薬を差しながら走ることにしようと思った。そういったトラブルはあったが、しばらくして長岡に到着。駅前のイトーヨーカドーで2回目の昼食をとる。

食べてばかりいるようだが、自転車旅行中は2時間おきくらいに食事を摂る。自転車は有酸素運動なので痩せますか?と聞かれることが多いが、食べ物は車で言うガソリンなので、食べないと走れない。カロリー消費量はものすごく多いが、同じだけカロリーを取らないと走れない。プラマイゼロ。自転車で世界一周して太ったという人もいるくらい。

First Stage 埼玉~新潟編

2日目 その2 バトルオブ三国峠

前橋市から40Kmくらいだろうか、上越新幹線の上毛高原駅付近まで来ていた。想像はしていたが、勾配が思ったよりきつい。いくらママチャリとは比較にならないほど軽い、約10Kgのクロスバイクとはいえ、登りが延々続くのは辛い。路肩が狭いうえに大型トラックの走行量が多く、安全上の心配もあって、実は2度ほど少し引き返した。自転車なんかやめて帰ろうかと思った。

しかし、何かが自分を引き留める。ここでやめたら二度と自転車旅行なんかしたくならないだろうと思った。

「退却クソくらえ!」 自分に何度も言い聞かせながら、ここまでやってきた。時刻は午前7時過ぎだ。明るいうちに埼玉まで帰れそうなのは、大体この地点までである。ここから先に進むと、自分の能力的には1日で帰れる距離ではなくなるだろう。

電車では何度も通ったことのある地域ではある。しかし、眠っていても目的地まで運んでくれる電車とは違い、いま頼れるのは自分の力のみ。きちんとした地図など持っていないので、道路標識や直感を頼りに駅を探す。

上毛高原駅のホーム。新幹線の駅とは言っても、新幹線しかない駅なので、東京駅とか名古屋駅みたいなのとは雰囲気がまるで違う。山の中にある隠れ家みたいな駅だ。探すのが大変だったくらい。新幹線駅の中では秘境駅と言っても良いだろう。

空気を運んでいるような上越新幹線『MAXたにがわ』のデッキに自転車を配置。上越新幹線に乗るのは2年ぶりくらいで、サイクリストとして乗るのはもちろん初めてだ。

上毛高原駅から一つ先の駅、越後湯沢まで新幹線輪行する。約15分の旅だが、自転車で旅していると、新幹線というのは異様に速い乗り物だというのが、ものすごくわかるから不思議だ。

温泉地、越後湯沢に到着。初めて自転車で関東以外のエリアを走るのだというワクワクを感じながら、駅前で自転車を組み立てる。越後の風を切って、ペダルを漕いでいく。

First Stage 埼玉~新潟編

2日目 その1 早朝ヒルクライム

サイクリストの朝は早い。まだ暗い午前4時前、前橋市を出発。国道17号線を北へ向かう。何度も走ったことがある17号線も、ここから先は知らない道だ。前橋市街はとても広い道だが、段々と狭い道になってくる。埼玉から前橋までは平坦な道だったのが、少しずつ上り坂になっていく。

渋川市内へと入る。渋川には伊香保温泉がある。『渋川』より『伊香保』の方が全国的な知名度は上かもしれない。電車だと渋川駅から分岐するJR吾妻線で草津温泉方面にもアクセスできる。一方、自転車だと渋川を抜けるとさらに登りはきつくなる。JR上越線と併走する形となる。自転車旅行では何かあった時のためにエスケープルートを確保することが大事だ。距離が長くなればなるほど、エスケープの手段を沢山用意するのが望ましい。

スケジュール的なものもあるし、この先の道がどれほど大変なものなのかまだわからないので、無理だと判断したら輪行する予定である。

とりあえず、行けるところまで行こう。

時間も体力も共に限られたものだから、それが現実的なやり方なのである。しかし、今はこの道を進んでいくとする。

群馬県北部。関東平野ももうすぐ終わり。

完全な登りである。片側一車線で、歩道はあったりなかったりである。一般の自動車よりも、大型トラックがバンバン走る道路だ。この旅行の計画段階からずっと引っかかっていたのが、群馬と新潟の県境にある三国トンネルである。設計が古くて幅が狭くて危険なため、現場判断でその付近は輪行する予定であった。

みなかみまで5Kmの地点。沼田市内の美しい景色。

輪行するならば、在来線では水上、新幹線では上毛高原が最適な乗車駅だろう。できればずっと自転車で新潟まで行ければ良いが、帰りのスケジュールや安全を考えると、輪行するのが最良だろう。在来線で水上から新潟方面は何時間も列車がない時間帯があるので、本数の多い新幹線を利用することにする。