自転車

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

1日目 デッドヒートを避けて

埼玉県から青森県までの道は、国道4号線を北上することにする。国道4号線は東京から青森まで続いている長い道路だが、現場判断で海を渡る方法をチョイスする。

私は現場主義だ。私は今でこそサイクリストだが、以前は全国各地でセミナーや講演会などのビデオ収録をする仕事をしていた。事前に会場の見取り図を入手して、必要な長さのケーブルや変換コネクタなどを用意して現場へと向かう。しかし、ケーブルを引く場所に障害物があったり、人の往来が激しかったりして、予定通りに配線できない場合が多い。何が言いたいかというと、どんなに机の上で考えていても、結局は現場こそが全てなのだ。

青森市から函館市までは鉄道とフェリーがある。青森県南部の八戸市から北海道の苫小牧市までフェリーがある。エスケープ手段としては、仙台から苫小牧までのフェリーもあるし、国道4号線と併走して東北新幹線や東北本線がある。さすが1ケタ国道というか、道のりは長いが、自転車旅行としては恵まれたルートではないだろうか。

関東以西在住の方の中には、『本州~北海道への交通手段は飛行機しかない』と思い込んでいる人が時々いるが、北海道と本州の間には世界最長の海底トンネル(青函トンネル)があって、毎日何十本もの列車が行き来している。東京で印刷された雑誌を発売日から1~2日後に北海道で買うことができたり、北海道産の新鮮な食材を東京で安く買うことができるのは、青函トンネルや長距離トラック+フェリーのおかげだ。

国道4号線をひたすら北上するわけだが、事前情報では、所々県境は峠になっているようだ。新潟までの国道17号線と違って、国道4号線にはトンネルがほとんどない。それほど険しい峠はないようであるが・・・。

埼玉から栃木県宇都宮市までは、通勤電車がバンバン走っている区間だ。関西地方で言えば、京都~大阪~神戸くらいの感じだ(多分)。埼玉県のターミナル駅である大宮駅から宇都宮駅も列車がバンバン走っているが、道路交通となると少しストレートとは言い難いルートとなる。埼玉県道3号線が大宮駅~栗橋駅付近まで東北本線と併走しているが、県道3号線はあまり自転車にとって走りやすい道路ではない。車道を走っていると、肩スレスレくらいを大型トラックがすり抜けていく。歩道は歩道で、でこぼこしていたり、途切れていたりして走りにくい。歩行者や一般の自転車も多い。よくある、トラックとかの物流基地が多い、大都市郊外の雰囲気だ。

宇都宮には数年前にも軽快車で行ったことがある。しかし、同じくらいの約100Kmを走る国道17号線経由で群馬県前橋市に行く時よりも、ずっとずっと疲れる。

そのため、今回は距離的には遠くなるが、国道16号線から春日部方面に走り、国道4号線で北上する。国道16号線は関東地方のベッドタウンを走る環状道路で、このあたりではバイパス的な役目をしている。街のド真ん中を避けているので、首都圏では比較的走りやすい。国道4号線で左折、宇都宮へと向かう。

途中のBig-A(24時間営業のコンビニ的なディスカウントスーパー)で飲み物や食べ物を補給する。宇都宮で宿泊する予定なので、今日はたっぷり時間をかけて旅を楽しむ予定だ。どうせ、北海道までは遠い。

国道4号線は県道3号線と比較にならないほど走りやすい。道路が広いうえ、交通量も少ない気がする。やはり、大宮方面から宇都宮方面に向かう車の多くは、距離的に短い県道3号線を経由するのだろう。大宮からだと、国道4号線経由だとかなりの回り道になる。だが、私は安全と快適を優先させた。急がば回れ。一種のポリシーだ。

埼玉県と茨城県の県境に差し掛かる。なぜ茨城県? と思われる方に説明すると、東北本線(通称 宇都宮線)にも一駅だけ茨城県の駅がある。古河駅だ。地図で見ればわかるが、古河だけ西側にピョンと出ているのだ。茨城県の県庁所在地である水戸市からは相当遠いし、古河を埼玉県や栃木県の街だと思っている人もいる。まぁ、とにかくちょっとだけ茨城県を通って、栃木県に向かう。

古河のイオンでスポーツドリンクを買う。一番安いベストプライスというプライベートブランドの2Lのスポーツドリンクを買う。「遺伝子組み換えトウモロコシを使用しています」などと書かれているが、あまり気にしない。よく知らない人からすると、サイクリングは健康的なスポーツらしい。だが、市街地を走るサイクリストは、発がん性物質である排気ガスを吸い続けることになるし、常に命の危険にさらされている。

スポーツドリンクを1L飲んで、500mlをドリンクホルダーのペットボトルに移し、残り500mlは荷物になるがリュックに入れる。水分は重要だから、荷物になっても仕方がない。

大宮から前橋までの国道17号線では、常にロードサイド型店舗がぎっしりなのと比べると、栃木方面の100Kmは少し寂しい。が、この寂しい感じが時に良かったりする。

東北新幹線の高架線を見ながら北上していく。午後3時過ぎ、宇都宮市に入ったあたりで食事にする。例のカビの件で騒がれたばかりの、丸亀製麺で釜玉うどんを食べる。人間だって細菌だらけだし、個人的にはカビがちょっと生えたくらいじゃ別に気にしない。客が全然いないので、一人だが小上がりで寛がせて貰う。かるく冷房が効いてきて、住んでもいいくらい丸亀製麺は快適だ。

丸亀製麺を後にして、ゆっくりと宇都宮市街へと進んで行く。私は基本的に、路面が見づらくて危ない夜間走行はしない主義だ。日が暮れたら走らない。だが、予定より早く着いたので、久しぶりに宇都宮駅付近の散策をする。宇都宮は街づくりにおいて、自転車に力を入れているようで大変よろしい。宇都宮駅前に大規模な無料駐輪場(一定時間まで)がある。自転車を停めて、付近をふらふら数時間。

宇都宮は餃子が有名だ。テレビの企画で餃子像などが作られたこともある。調べたことないが、コンビニの数と同じくらい餃子屋がある。

日本には餃子屋なんてものが存在しない地域も多いが、餃子屋は居酒屋も兼ねている店が多い。何の変哲もない20代半ばくらいの大人しそうな女性が仕事帰りに餃子屋へ寄る。店の一番端の席で、枝豆、ビール、半ライス、餃子という、ほろ酔いセットを一人で食べているのだ。

あまり他県では想像できないが、栃木では餃子屋が女子会や接待などで使われる。餃子食べていると女性は声が大きくなるのか、栃木の女性がそうなのかはわからないが、餃子屋にはハイテンションの女性が多い。

私は基本的にブレない性格なので、宇都宮に行った程度のことでは餃子屋に立ち寄ることは滅多にない。しかし、餃子を除くと意外に市街地に飲食店が少なかったりする。それでもラーメン屋などはある。飲食店のウィンドウショッピングをしながら、適当に時間を過ごす。平和だ。

午後8時くらい、自転車で再びネットカフェがある郊外へ。車社会の北関東を代表する都市だけあって、ロードサイドにネットカフェが何店舗かある。明日また北上することを考えて、なるべく北にある店舗を目指す。ふらふらしてただけで、結局、夕食がまだだったため、スーパーのイートインコーナーで「すみれ」のインスタントの味噌ラーメンを食べる。札幌の本店でも何度も食べたことがあるが、インスタントラーメンではかなり美味しいラーメンで結構好物。

夜は走らない主義とか言いながら、すっかり付近は真っ暗闇だ。道路の左側の歩道をゆっくり走っていると、40代くらいのクロスバイクに乗った男性が逆走の車道から歩道に移ってこようとする。侵入角度が浅い。スピードも速すぎる。案の条、タイヤを滑らして派手に転倒する。自転車と男性が弾き飛ばされて痛そうだ。男性は自分の心配よりも自転車の心配をしているようだった。目の前で転倒したサイクリストを見て、夜間走行は危険なものだと改めて思う。

少し道に迷ってから、その日の宿となるネットカフェに到着。明日はどこまで行こうかな・・・などと考えているうちに夢の中。

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

プロローグ 新しい旅へ

最初に断わっておくが、この旅は本来予定していなかったものである。ある意味、番外編だ。なにしろ、このスポーツ自転車を買って達成したかった最終目標が「新潟まで自転車で行くこと」だったから。だって、もう新潟に行ったんだから、本来はすべて終わりなのである。ゴールイン! お疲れ、自分! めでたし! めでたし! またいつの日か、お会いしましょう!! さようなら~!!

・・・だが、その新潟旅行が案外あっさり達成できてしまって、自転車のローンも残っているから元を取るべき、もっと違う旅行に行くべきだ・・・というのが旅立ちの理由だ。

この頃はまだ気づいていなかったが、自転車旅行というのは中毒性がある。旅の終わりころに、体も心も疲れ切って「二度と自転車旅行なんかするものか!」と心底思うのだが、数日して疲れが癒えたら、なぜかまだ自転車に乗りたくなってしまう。自転車中毒とでも言うのだろうか・・・。間違いない。きっと自転車には依存性がある。

いま新潟以外で行きたい場所といえば、帰省も兼ねて北海道だろう。鉄道や飛行機では何度も行ったことがある(というか生まれた場所)北海道に、自転車で人力で行けるとしたら、それは素晴らしいことだ。地震など自然災害が多発している中、万一交通機関がストップしても、自転車なら自分の力だけで行き来できる。そのための練習をしておこう。でも、それほどの規模の災害なら、道路も使えないから結局できないのでは? などという矛盾というか、適当な考えを色々としているうちに、出発の準備は整った。

大まかな地図や宿泊予定地の情報をスマホに入れて、できるだけ荷物は少なくした。ちなみにマイスマホはwifiのある環境でしかデータ通信はできない。お金が勿体ないから、通話機能しか契約していないからだ。GPSすら使えず、大した役には立たない。まだ5月で北海道は寒いだろうから、重ね着できる服装の用意だけはした。

前回の新潟旅行同様、適当な準備だけして、とりあえず旅立つことにした。

※地図はイメージです

First Stage 埼玉~新潟編

2日目 その4 掟破りのサイクリスト

前橋をスタートして上毛高原駅→越後湯沢駅は輪行したが、今日はすでに130Km以上も走っている。「1日の走行は100Kmまで」という自分流の掟を作りながらも、自分で掟を破って走っている。

長岡駅前のイトーヨーカドーに寄る。地元の女子高生が沢山集まるフードコードで食事を摂っているうちに、徐々に体力と気力が回復してきた。長岡は良いところなので宿泊したかったが、例の現象でホテルが高い。諦めてさらに先に進む。長岡から約30Km先の三条市の国道沿いに某ネットカフェがあるので、そこをエスケープ場所にしよう。それに線路も付近を走っているので、いつでも輪行ができる。複数のエスケープ手段は確保できている。

ちなみに、例の現象とは人口1万人~20万人くらいの都市は、人口20万人~200万人以上の大都市よりもホテルの相場が高いことが多い現象のことだ。リゾート地でなくても。需要と供給の関係や、競争が起きにくいことが要因だろう。

長岡市と新潟市は、新潟県では2大都市である。本州太平洋側で言えば東京と大阪、北海道で言えば札幌市と旭川市と言ったところ。高速バスや列車がバンバン走っている区間だ。普通列車も7両編成など長い編成の列車が走っている。

当然、道路もよく整備されていて・・・というか、交通量が半端ではないのだ。国道8号線は直線的な道路で自転車も走りやすいが、あとで北海道でも思い知ることになるが、直線的な道路というのは精神的にとても疲れる。

ショッピングセンター・イオンの大型店は、直線に見えても店内の通路を微妙にカーブさせているという。人というのは、直線でずっと先が見えると進んで行くのが嫌になるからだ。だから、わざとカーブさせているらしい。街と街を道路で結ぶなら、直線の方が効率が良いのは確かだが、自転車だと真っ直ぐな道は精神的な疲労度が高い。

新潟市を示す標識。やっと新潟市に着いた。というのは平成大合併以降の自転車旅行にありがちなトラップで、実際の新潟市(?)はもっと先だったりする。市町村で言うところの新潟市には入ったけども、鉄道旅行の時にイメージする新潟市、つまり 新潟駅付近などの市街はここから30Kmも先なのである。

ここから1Kmおきに「新潟まで○○Km」という小さな標識が出るのだが、直線道路と組み合わさって結構な苦痛である。道路標識というのは、基本的に自動車やバイクの人のためのものなので、自転車だと「こんなに走ったのにまだ○○Kmもあるのか・・・」とげんなりする人が多いのではないだろうか。

新潟市南区というのは、札幌市南区と同じくらい、街の中心部の雰囲気とかけ離れたものがある。新潟市に鉄道で何度も行ったことがある私でも、南区に来たのは初めてで、怪我の功名というか、自転車旅行だからこそ来たという感じがする。一人旅の自転車旅行では寄る気にもならないが、果樹園が多いようである。白根という地域だ。元は白根市だったが、現在は合併で新潟市となっている。

リンゴは全国的には青森県産が有名だが、白根産のリンゴや梨は新潟県内のスーパーなどで売られている。

国道沿いで交通量も多いが、意外にコンビニや飲食店が少なかった。途中で漕ぐ力がなくなってしまった。車で言うガス欠である。仕方がないので、非常食として持ち歩いていたサーターアンダーギー(沖縄風のお菓子、埼玉で買っておいた)を国道上で食べて凌ぐ。

標識はあと15Kmの表示。うーん、遠い。はるか彼方と思えて仕方がない。が、交通量も多く、気をしっかりさせないと危険なので、気合を入れなおす。もう少しで到着だ。

適当な旅行なので、まともな地図を持っていない。この国道8号線が新潟市街地のどのへんに出るのかわかっていない。イメージ的には鳥屋野潟とか新潟駅南口付近ではないか?と思っていたが、標識によると、新潟ふるさと村あたりにアプローチしているらしい。

悪いことに、何度も行ったことがある新潟市でも、ふるさと村の付近は全く土地勘がない。しかし、その付近によく利用するネットカフェのチェーンを見つけ た。立ち寄って、いまさら情報収集する。明日以降は観光も予定しているので、ゆっくり休みたい。新潟市内にホテルを予約する。安いホテルがあって良かったし、一度泊まったことがあるホテルなので地図も必要ないな。これで安心だ。

ネットカフェを出たころ、街は夕日に染まっていた。

END