自転車

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

4日目 その1 北東北突入

この旅が始まって以来、今日は初めて150Kmほどの走行を予定している。一応、前日の睡眠前の10分間だけ、翌日の予定を立てる時間としている。名取を出るとすぐに100万都市・仙台だが、大都会周辺は交通量が多くて時間がかかる。だから、この日は午前4時前に出発した。

仙台周辺のバイパスは今まで見たことがないほど、広くて豪快な道路だ。なんだこれはー。自転車走行可能な歩道もあるが、歩道を進むと交差点の度に遠回りを強いられるので、車道の端を走る。朝食がまだだったので、半田屋(仙台で有名な大衆食堂チェーン)に立ち寄る。

夜明けのタクシードライバーやトラックドライバー、出勤前の土木作業員が数名と、意味不明のサイクリストが1名(私)と言った顔ぶれだ。食後にトイレによると、落書きが凄まじい。卑猥なものが中心だが、「仙台は田舎か?」という問いがあって、別の人が落書きで会話をしているような感じだった。

ちなみに私の答えとしては、仙台は都会か田舎かというと、間違いなく都会だと思う。新幹線も地下鉄もある街が田舎だったら、新幹線はおろか、鉄道路線すらない街は何なのか。鉄道がない街なんて、日本にも沢山ある。

但し、インフラが充実していて人口も沢山いても、雰囲気が田舎という都会もある。だが、仙台は都会だと思う。

今日の走行距離は長い。先へと急ぐ。国道4号の仙台バイパスは直線的で、しかも所々微妙な登りがあるので、精神的に結構やられる。列車と高速道路でしか仙台に行ったことがなかったので、仙台の街がこんなに広いものなのかと驚かされる。仙台って一体どこまで続くのか・・・。本州の7分の3くらいは仙台なのかもしれない、と思えてくるくらい。

ようやく仙台を抜ける。東北本線とは併走はしているが、西に5Kmくらい距離がある所を国道4号線は走っている。感覚的には線路から離れてしまった感じがする。30Kmおきくらいに新幹線の駅があるのが精神的に支えとなっていた。なにかあれば飛び乗れるから。

このあたりを走行していると、道路標識に「大崎」という地名が出てくる。東京の大崎(山手線で言えば品川の隣)は聞いたことがあっても、宮城の大崎は聞いたことがなかった。合併でできた街らしいが、宮城県内では3番目の規模の街だという。新幹線で言うと古川駅のあたりだろう。古川と書いて貰った方がまだわかるが、どこなのかイメージつかない場所を目指して走る不安感というのは、なかなかのものである。

古川、いや大崎を抜けても、まだまだ岩手県には遠い。

おおむね写真のような道を数時間延々と進むと、やがて岩手県一関市に入る。一関は列車で旅しているとよく聞く地名なので安心感を覚える。

後ろを振り返ってもこんな道が延々と続くだけで、遠くに来たのだなぁという感じがする。仙台近辺ではあんなに広かった道路も、ここでは片側一車線。自転車は走りやすい。

岩手県によくあるスーパーのジョイスで食事休憩。私は、カツ丼マニアと言ってもいいくらい、色々な土地でカツ丼を食べる。店で食べるカツ丼よりも、その土地のスーパーのカツ丼が専門だ。岩手県(正確にはジョイス)のカツ丼は全国的にどうかというと、薄味で非常に淡泊な味だった。

カツ丼というのは不思議なもので、見た目が美味しそうでも食べたら不味かったり、反対に不味そうな見た目でも食べたら美味しいというのはよくある。私が好きなカツ丼は、肉が柔らかくて、出汁がよく効いて醤油味がしっかりしているものだ。カツと卵以外の具には、あまり拘りはない。新潟のタレカツ丼など亜種もあるが、卵とじのカツ丼のみを評価対象としている。北海道のコンビニのセイコーマートのカツ丼(500円)をオール5点の頂点カツ丼とし、相対評価である。コストパフォーマンスも評価対象であるから、いくら美味しくても高ければ評価はそれなりになってしまう。

ちなみにジョイスのカツ丼は総合評価で2点というところだろう。厳しいが、好きなものには妥協しないというのが私のポリシーでもある。

その2に続く

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

3日目 失速するモチベーション

昨晩はビジネスホテルでぐっすり休んだ。宿泊費の節約のため、ネットカフェ、ホテル、ネットカフェ・・・という繰り返しで行こうと思う。峠があったり疲れがたまっている時はホテルで、そうでもないときはネットカフェで行こう。

昨晩は午後5時くらいに眠ったせいで、夜中に目が覚めてしまった。隣に大きい24時間営業りスーパーがあり、夜食を買った。レトルトのタイのグリーンカレーを食べたが、タケノコ(多分)ばかり入っていて、あまり美味しくなかった。米は売れ残っていた惣菜コーナーのものを買って、ホテルのロビーにあった電子レンジで温めた。一緒に買った紀文の調整豆乳は美味しかった。豆乳は普段飲まないから10年ぶりくらいか。昨晩飲んだ焼酎は「かのか」だが、「いいちこ」の方がよかったかな。

朝食はホテル側でパンとジャムを用意してくれた。スーツ姿の出張ビジネスマンに混じりながら食べる。本当は米が食べたいが、無料(宿泊代に含まれている)だから、不味いパンと不味いコーヒーで我慢する。

3日目の今日は仙台方面へ向かう。なんとなく、今日が山場のような気がする。大きな、見えない山が目の前にある。すなわち、今日を越えられれば北海道まで行けるし、今日が駄目だったら、半泣きで帰ることになるだろう。旅の結末は、3分の1も進めば、いつもその時点でわかってしまう。周囲の人間にはわからないが、旅の当事者には、それがはっきりとわかる。

「惨めなサイクリスト、福島で疲れ果てて死ぬ」

そんな新聞記事の見出しを想像してしまう。この日はアンニュイな気持ちでスタートした。

郡山市と福島市の間は、普通列車で何度も通ったことがあるのでわかるが、割と市街地が続いている。何かトラブルがあっても安心だ。普通列車でも1時間かからないくらいの距離だし、道路も比較的走りやすい。

遠くに見えるのが福島市の街並み。自転車で旅していると、日本というのは東京近辺を除くと、本当に山ばかりの国だというのが実感できる。

福島市を通り過ぎて、宮城県へと急ぐ。今日はホテルでゆっくりしていたので、珍しくスタートは午前10時と遅かった。明るいうちに宮城県に辿りつきたかった。福島市を過ぎると、郡山~福島間に比べると随分と田舎の平和な景色となる。スーパーで食事休憩を取りながら、宮城県へと進む。

そんなにきつくはない長い山道のあとに宮城県白石市に到着。白石市は福島県との県境にある街だ。新幹線など鉄道旅行では、東京近辺の人はあまり訪れることがない街だと思う。

この日の宿は仙台市の南にある名取市のネットカフェを予定している。名取には午後5時頃に着いて、時間的にまだ早いので、ネットカフェ近くのビッグボーイ(ファミリーレストラン)で食事をする。ハンバーグなどのメニューが中心だが、カレーやサラダなどのバイキングもある。通常はハンバーグなどのグランドメニューとバイキングを組み合わせるが、バイキング単品でも注文できる。

学生風のウエイトレスに「カレーのバイキング単品ありますか?」と頼むが、「ない」と言われる。聞き方が悪かったのだろうか。「カレーの」じゃなくて、「バイキング単品ありますか?」と聞けば「ある」と一回で答えて貰えたのだろう。サイクリング後で頭があまり働かなくて、自分でもよくわからないまま、別の学生風のウエイトレスに改めてカレーもある「バイキング単品」を頼む。日本語とかコミュニケーションは難しい。

2時間くらいしてからネットカフェに移動しておやすみなさい。

Second Stage 埼玉~東北~北海道編

2日目 南東北エリア初進出

宇都宮市内のネットカフェから出発。本当はちゃんとしたベッドでないと眠れない性質だが、サイクリング疲れで割と眠ることができた。午前4時頃、外の世界は、だいぶ明るくなってきていた。

昨晩、暗闇の中迷った道で、また迷う。宇都宮市街地の北部は道路が高速のインターチェンジみたいになっていて、土地勘もカーナビもないと、どこに進んだらいいのかよくわからない。2Kmくらい違う方向に進んで、やっぱり引き返して、福島県方面に向かう道を見つける。

道はとっーても広く、路面状態が良くて走りやすい。車も少ない。早朝のサイクリングは快適だ。宇都宮以北を自転車で走るのは初めてだが、ひたすら国道4号線を北上するだけなので、道に迷うことはないだろう。

今日の宿は福島県郡山市にビジネスホテルを予約してある。チェックインは午後3時からだから、それくらいに着けば良いだろう。今日もゆっくり人生を楽しもう。人生などと大げさに思えるかもしれないが、生まれてから死ぬまでの間が人生だ。この自転車旅行も、人生の一部であることは間違いない。

国道を時速30Km前後で走っていると、道路に散らばったガラスの欠片を踏みそうになる。新潟でも大きい道路ではよくあったが、自動車のライトのカバーが破損したものや、酒の瓶が散乱したものが道路に散らばっていることが時折ある。クロスバイクのツルツルしたタイヤでこれを踏んでしまうと、パンクは免れない。新潟旅行でそれなりにタイヤがすり減っているから、パンクの危険度は高い。走行中は前方に加えて、路面も常に見ている。常に神経を尖らせているので、長時間走るのは精神的に結構疲れる。

ちなみに、パンクに備えてパンク修理の工具一式と、予備の交換用チューブを1つ持ち歩いている。市街地ならともかく、山の中でパンクしたら自分で何とかするしかないからだ。パンク修理はそれほど高度な作業ではないが、タイヤからチューブを取り出して、パンクの箇所を探して穴を埋めて、またタイヤの中にチューブを戻す・・・つまり、そんなに楽しい作業ではないから、できればパンクはしたくない。パンクが好きな人は滅多にいないだろうけど。

サイクリストなら誰でも羨むであろう、走りやすそうな道を走っている。新幹線で言うと那須塩原駅の近辺で、栃木屈指のリゾート地帯(多分)だ。遠くに「なす岳」を見ながら、北へ向かう。いやぁ、本当に走りやすい。

しかし、走りやすい道路も長くも続かず、この日最大の難所となる栃木と福島の県境の峠がもうすぐ待っている。東北新幹線は一気にトンネルで抜けてしまうが、暑さも手伝って、まぁそんなに急ぐ必要ないからと所々、自転車を押して登る。

峠を越えると福島県だ。以前、車で東北地方を回るような仕事をしていたが、白河の街に来るのは何年ぶりだろうか。国道沿いに大きなイオンがある。自転車で国道ベースで旅をしていると、本当に色々なところでイオンを見かける。しかも、どこも賑わっている。茨城県の水戸市のように、昔からの市街地は寂しい一方で、郊外のイオンは若者が大勢集まるような、一大レジャースポットと化しているところもある。

一企業が街を支配しているような様はあまり好きではないが、安価に食料を調達できて、イートインスペースもあって、トイレも綺麗で、自転車コーナーもあって、しかも国道沿いにあって、遠くからでも目立つ・・・と良いこと尽くめだ。自転車旅行でも大変便利なのである。一企業が(以下略)。

午後2時ころ、郡山市に入る。福島県の県庁所在地は福島市だが、郡山市の方が東京には近く、新潟方面とのアクセスが良い。郡山出身の知人が昔言っていたが、郡山が福島県で一番都会だと言う。

郡山も何度が来たことがあるが、自転車で走ると街の構造が手に取るようにわかる。鉄道というは、基本的に街と街を結んでいるものだが、道路交通というは街そのものの血管みたいなものだ。自転車は血管の中を進んでいく。

午後3時前、予約していたビジネスホテルに到着。隣のスーパーで食料と酒を買い込む。朝早かったのと、2日分の疲れを癒すため、早めに眠る。