サイクリング

Fourth Stage 沖縄本島編

2日目 その2 やんばる(本島北部)へと旅は続く

頭痛薬を飲み、右膝の痛みに不安を覚えながらも、ゆっくりペースで国道58号線を北上する。このあたりは米軍の嘉手納基地の間を国道が通っていく。元々は米軍用の道路として作られたそうだ。頭上に戦闘機が爆音と共に飛び交う。

沖縄に何度も来ているので、最近はあまり気にならなくなったが、沖縄を走っている車の多くは中古車だ。本土で酷使された車が沖縄で売られている。北海道だと転勤とかで「品川」とか道外ナンバーをたまに見かける。彼らは内地風(※)を吹かしたいらしく、いつまでも「品川」ナンバーなのだが、沖縄だと県外ナンバーは滅多に見ない。沖縄ナンバーの方が車検が安くなるからだそうだ。

※北海道では本州のことを内地と言う。沖縄では北海道、本州、四国、九州のことを内地や本土と言う。

嘉手納町を抜けて読谷村に入る。天下の58号線沿いも、グッと島の落ち着いた雰囲気になる。夏だと歩道に国の天然記念物であるオカヤドカリがいて感動することがある。オカヤドカリは本土のペットショップなどで売られていることもあるが、天然記念物なので観光客が無許可で捕獲してはいけない。

恩納村に近づくにつれて「わ」ナンバーのレンタカーが増える。リゾート色が強くなる。沖縄の桜は1月~2月頃に咲く。冬の日中の気温は20度前後と初夏の北海道並に走りやすいが、それほどサイクリストは多くない。ここまで2人くらいしか見かけなかった。

沖縄は車道の路側帯が狭いのと、大型トラックや観光バスが多いので歩道を走行した方が安全だと思う。歩いている人は滅多にいないし、沖縄の歩道は大抵広い。広いせいで、駐車場として使われている場合も結構あるのだけど。

海が見えてくると恩納村だ。恩納村は1975年の沖縄海洋博の頃に開発されたリゾート地帯だ。リゾートホテルや別荘のような建物が多い。このあたりから北の沖縄本島は「やんばる」と呼ばれていて、自然などが多く残されている。中心都市は名護市で、やんばる全体の人口は約12万人。沖縄本島自体は、那覇市を中心とした南部に人が集中している。

恩納の道の駅付近。道幅も広く、走りやすい。リゾートホテルの多い区間で、那覇からの路線バスも多い。基本的に、那覇から北に向かう時は登り坂となる。以前より自転車の写真が増えたのは、北から南まで一緒だったせいで、物に愛情を抱かない私でも少し愛着が湧いたから。沖縄県内で累計走行距離が8,000キロを超えた。日本一周はコースによるが、多分7,000~8,000キロくらい。

明るいうちに名護まで着いているのが本日の理想。というか希望。恩納のリゾート地帯を抜けて、さらに北へと進んでいく。

木の実が路上に沢山落ちていている。この木の実は、沖縄の色々な所にある。避けながら進んでいく。「毒があるので食べてはいけません!」という張り紙をたまに見る・・・。いい年した大人だったら、美味しい木の実がそのへんに転がってる可能性が低いことは、常識的にわかると思うが。国道沿いの小さな公園でトイレ+小休止を挟む。

休んでいると、50代後半くらいの自転車旅のオジさんが話しかけてきた。私は自転車旅で他の自転車旅の人と話すことは滅多にない。同類嫌悪というわけじゃないが、民宿やライダーハウスの類をまず絶対利用しないので、まとまった時間、彼らと接する場がないからである。輪行は飛行機か新幹線だし、八戸から北海道までフェリーに乗った時(2nd Stage 埼玉~東北~北海道編参照)は、周りは全員、定年退職の年金生活者だった。

オジさんは今朝、北海道の新千歳空港から福岡経由で那覇に来たらしい。福岡出身でサラブレッドに惹かれて、現在は北海道の日高地方に住んでいるという。日高は牧場だらけの場所で、JR日高本線の車窓は馬だらけだ。馬が好きな人には堪らないだろう。

オジさんは去年の8月に北海道を自転車で走ったという。夏場の北海道は自転車旅行をするために、夏休みの学生や正体不明のオジさんなど、色々な人達が全国から集まってくる。今日は夏みたいに暑いのに全然サイクリストがいないね、という当たり障りない話をしてオジさんと別れた。平日だから当たり前だろう、と内心思った。日が沈むまで話が終わりそうになかったので、早く切り上げねば、とも思った。オジさんは3日間で沖縄本島を一周して、石垣島に向かうという。

オジさんはそういうタイプではなかったが、どうも50代後半や60歳前後くらいの人には警戒心を持ってしまう。ちょうど親子くらい歳が離れているので、その年代の人は自分の子供に説教をしているつもりで、他人にまで説教をする傾向があるように思ってしまうからだ。

遠くに見えるのが名護の街。全然興味がないが、名護には北海道の某プロ野球チームが冬期間キャンプに来る。というか、日本のプロ野球チームの大半が沖縄でキャンプするらしい。キャンプって、バーベキューとかやるアレかなと思うと楽しそうだけど、実際どんなことをしているかまでは全くわからない。多分、野球の練習だろう。

夕暮れ時の名護湾。日中は暖かい冬の沖縄も、日が沈むと気温が下がり、寒暖の差が激しい。単純に景色だけで言うと、北海道より沖縄の方が山あり、海あり、街ありでエキサイティング。北海道も島ではあるが、沖縄の方が18倍くらいは島って感じがする。

北海道は大陸的で、自転車だと同じ景色が最低6時間は続く。

それに比べたら、沖縄自転車旅は走馬灯のようだ。走馬灯って死ぬ時に見るアレで、どんどん景色が変わっていく。刹那的でさえある。

北海道と沖縄は戦ってきた歴史がある。というか、一方的に北海道が「海しかない(失礼)沖縄に負けるはずがない」と観光客誘致に熱くなっている。自分の知る限りでは、沖縄が北海道を観光でライバル視している話は、あまり聞いたことがないが・・・。

沖縄自動車道の名護側の許田インター付近。沖縄自動車道は那覇と名護を結んでいる高速道路。名護側が起点。

国道58号線も実際は鹿児島県が起点で、種子島、奄美大島を海上で経由して、北から南へ沖縄本島を那覇まで縦断している。海上部分を含めると日本最長の国道だ。ゴッパチとかゴーヤとも言う。

名護湾に沈んでいく夕日。

日が沈んでしまったので、なにはともあれ、かねひでで買って海岸で夕食。寒くて手が凍える。ミートスパゲッティー238円はボリューム満点。かねひでに限らないが、沖縄のスーパーの惣菜は、お得感あるものと、そうでないように思えるものの差が激しい。

騙し騙しここまで漕いできたが、右膝が結構痛い。100が最大なら、70超えだ。名護中心部までは5Kmくらいだから、しばらくは寒いし自転車を押して歩こうか。

名護まで来たのは多分、人生で3回目だと思う。初めて来たのが2005年で、2回目が2009年だった。那覇からバスで来ると片道1800円くらいかかったと思う。交通費のかかる北海道でさえ、札幌-旭川間(約120Km)の高速バスが片道2000円なので、沖縄のバス代は少々高いと言わざるを得ない。

でも、沖縄のバスは他県のバスより楽しい。客が少ないと運転手さんが世間話を振ってくるし、バス停がないところでも人を拾ったりする様はタクシー顔負け。タクシーもタクシーで、目が合うだけでも止まってくれるし、自転車押してても乗車を誘われる。レンタカーでしか沖縄を回ったことがない人は、バス旅も薦めます。

名護には全国チェーンのネットカフェが1軒だけある。那覇はホテルが過剰にあるので価格競争で激しく、特に冬は軒並み安いが、名護のホテルは高い。那覇は1泊3000円前後が相場だが、名護は6000円前後が相場だ。

この日、初めはネットカフェを利用しようと思っていたが、ローソンの無料Wifiを利用してスマホで調べたら3980円でホテルがあった。名護で3980円は相当安い。たまたまその宿泊サイトのポイントが溜まっていたので、さらに安く泊まれる。膝も心配だし、昨日からまともに眠っていないので、この日はホテルに宿泊することにした。

キャッスルという名のホテルだが、外観や設備は古城と言った感じだ。しかし、物は考えようで、本土のホテルと比較するとそう思えるだけで、アジアの安宿とかだと思えば、全く何ともない不思議。マックスバリューでポークなどのうちなー弁当を買って食べて寝る。

ちなみに、このホテルは地元では幽霊が出るという噂があるらしい。沖縄は死後の世界と密接に繋がっていて、地球で最もこの世とあの世がリンクしている場所であり、ユタがどうのこうの・・・という話を78回くらい沖縄本で読んだことがあるので、幽霊の噂なんて乙女チックなものが沖縄にもあるというのは意外だ。

Fourth Stage 沖縄本島編

2日目 その1 とりあえず、北谷かどっかまで

午前9時半頃、沖縄・那覇空港に到着する。沖縄を訪れるのは約2年ぶりだ。10何回目かの沖縄アイランド。ピーク時には年に3回も沖縄に来ていたことを考えると、空白の2年間だったと言える。意識して沖縄から遠ざかっていたのだ。今回の旅の目的の一つは、格好よく言えば、過去の自分との再会だ。

自転車を受け取り、空港を出て組み立てる。外国だとスーツケースとかと一緒に『グルグル回転するやつ』に載せられて出てきたり、ぶん投げられたりするらしい(?)が、ジェットスターの国内線では、北海道でも沖縄でも、大抵ガタイのいいお兄さんが直接運んできてくれる。

那覇空港からは沖縄県唯一の軌道系交通として「ゆいレール」という名称のモノレールが出ている。観光客集まる「国際通り」近くを経由して、やはり観光客集まる首里までを結んでいる。

首里は元々は首里市という独立した街で、琉球王国時代に偉い人が住んでいた所だ。関西地方で言えば、那覇は大阪、首里は京都だ。住んでいる人の気質も異なると言われる。

首里の人は、無理して北海道に例えれば、東京にいる札幌出身の人だ。札幌の人は「どこ出身?」と言っても「北海道」とは言わないで、なぜか「札幌出身です」と言う。首里の人も那覇じゃなくて「首里」と言う。

沖縄県内のスーパーや、ほっともっとなどの弁当屋は24時間営業しているところも多いが、ゆいレールは24時間営業ではないので注意。ちなみに戦前は沖縄にも多くの鉄道路線があったが、戦争でなくなってしまった。自分が鉄道関係の偉い人だったら、北海道の赤字路線をやめてでも、沖縄に鉄道を作りたい。北海道新幹線も函館まで開業して本州と行き来しやすくなれば、それで十分な気がする。どうせ札幌まででは道北や道東の人は恩恵を受けにくいし、「うちなータイム」ならぬ「道民タイム」が壊されてしまう。

写真は日本最南端の鉄道駅、赤嶺駅。近くには沖縄ローカルのスーパー「ユニオン」がある。沖縄にはサンエー、かねひで、りうぼうなどのローカルスーパーがある。他に内地資本のイオン、マックスバリューもある。内地色が強いと受け入れられないからか、内地資本の企業は「イオン琉球株式会社」「株式会社ローソン沖縄」などと沖縄を意識した社名で子会社として営業していることが多い。サンエーではローソンのPB商品のレトルト食品などを扱っている。沖縄の吉野家にはタコライスがある。

那覇空港の近くにはレンタカー屋が沢山ある。3泊4日くらいのパック旅行で沖縄に来た家族連れとかは、大抵レンタカーを使う。空港からレンタカー屋のマイクロバスで店舗に移動する形式が多い。那覇市内に宿泊する人はゆいレールで、北谷や恩納、コザ、名護方面に向かう人はバスを使う。那覇市内中心部(国際通りあたり)までは歩いても1時間くらいなので、荷物が少ない人は歩いても楽しいと思う。ほとんど歩いていく人はいないが・・・。ゆいレール沿いに歩いてもいいが、空港北側の道路を歩いた方が街には近い。

今回は自転車があるので、当然自転車を使う。沖縄の人は自転車に乗る習慣があまりないので、いわゆるママチャリに乗っている人はほとんどいない。県内で自転車やトライアスロンなどの大会があるので、スポーツ自転車に乗ってる人をたまに見かける程度。よって、街中の自転車屋はとても少ない。那覇や名護などにスポーツ自転車メインの自転車が数店舗あるが、ママチャリをメインとして自転車屋はほとんど見ない。

イオンやホームセンターの自転車コーナーをあてにしてもいいが、本土でさえ、そういう店には整備士がいない場合があるので、どこまでに頼りにしていいかわからない。沖縄のイオンの自転車コーナーを回ったが、700サイズの仏式バルブという、スポーツ車では極めて一般的なチューブを扱っていなかった。沖縄に行く場合は本土で多めに買っていった方がいい。

文化とか気候とか人間とか色々な面で、東京と北海道は実はそれほど違いがないが、東京と沖縄の違いは大きいように思う。

かねひでで買い物して朝ごはん。タコライス、ちんすこう、ドラム(フライドチキン)、ルートビア。

ルートビアは沖縄独自の飲み物と誤解している人がたまにいるが、別に沖縄の飲み物というわけではない。欧米やアジアなどの大抵の国でコーラと同じくらいどこの店にも売っている、全人類的な飲み物である。映画のタイタニックにも「ルートビアでも飲まないか?」という台詞があった気がする。海外だと1.5Lのペットボトルとかも売っている。日本では沖縄以外では輸入食料品店くらいでしか買えない。ドクターペッパーに似ていると言う人もいるが、私はドクターペッパーとはかなり別物だと思う。

北海道にもガラナというブラジルのコーラ風の飲み物がある。昔、北海道にはコーラがなかったので、先回りしてガラナが普及したらしい。コーラが北海道に入ってきたのはガラナから遅れること3年。私はガラナにはそれほど思い入れがない。

なんみんビーチ。ガイドブックには波の上ビーチと書いてあるビーチのこと。海に囲まれた沖縄も、那覇市内では唯一のビーチがここ。東京とか横浜みたいに、海岸は橋だらけで、これがビーチと言えるかよ、という状態に。誰もいないのは冬だからで、夏だと多少は人がいる。

なんみんのすぐ近くはラブホテル街で、40軒くらいソープランドもある。自動車学校もあって、本当か知らないが、沖縄出身の人が言うには路上試験のコースがそのラブホテル街なのだとか。ちゃんぷるー(ごちゃまぜという意味)文化らしく、小学校低学年の子供がラブホテル街でボール遊びをしていた。

写真中央付近にあるのがホテル「きまぐれポニーテール」。ここ2年くらいの間に看板が変わってしまった。昔のポニーテールの女の子の看板の方がよかった。「きまぐれポニーテールの角を右に曲がって」などと教習をやるのだろうか。

私は札幌で自動車免許を取ったが、雪国で免許を取るんだったら、絶対に雪のある季節に通った方がいい。雪のない季節に免許を取ったので、怖くて雪道なんて運転できそうもない。沖縄の人も、信号がほとんどないような離島で免許をノホホンと取ってしまうと、本島に来て運転する時に大変らしいが。

市街地を避けて、橋の上を通って北に向かっていく。自転車人口の少ない沖縄にもサイクリングロードがあるが、都市間移動に適したものではない。那覇市街を抜けたら沖縄の大動脈・国道58号線に入る予定だ。なんかやっぱり、自転車を漕ぐと右膝が痛む。昨日の痛みは気のせいではなかったようだ。不安だ。膝に負担がかからないようにギアを調整しながら走る。サイクリストにとって膝は命だ。

国道58号線の立派な交差点。今いる所が那覇市で、向こう側が浦添市。東京と埼玉、いや札幌と小樽、または札幌と江別と言ったところだ。このあたりの通勤時間帯の交通量は、東京、大阪など本土の大都市と同じレベルだという。ぜんぶ電車交通がないせいだ。

58号線沿いにある沖縄の某理髪店チェーンは、平日大人700円。本土で700円の理髪店はそうはないなー。あっても怖くて行きたくないけど。沖縄の最低賃金は現在、時給664円だ。以前は北海道の最低賃金も630円くらいだったが、今は734円にまでアップしている。この金額、北関東3県や、福岡県、広島県などよりも高い。エラい人が最低賃金をどうやって決めているのかは知らないが、北海道は冬は暖房費がかかるし、隣町まで何十キロも離れていて他県より交通費がかかるから、そのあたりを考慮しているんだろうか。

北海道の物価はイメージほど安くない。ジンギスカンの肉は本州よりかなり安いが・・・。北海道は正社員でも15万円前後の給与の会社が多いのに、なぜか北海道民の平均給与が割と高いのは、自衛官など国家公務員が押し上げているためだ。北海道は日本最北端のうえ、国土の4分の1もの面接があるため、自衛隊の駐屯地が沢山ある・・・。

58号線の宜野湾バイパス。市街地の混雑を避けつつ、海を見ながら走りたいなら、迷わずバイパスだ。快適な沖縄サイクリングのツボは、ずばりバイパスにある。那覇、浦添、宜野湾くらいまでは街が連続的に続いている。意識していないと、違う街になったことがわからないくらい。

国道58号線は米軍の軍用道路として作られたが、このエリアの旧道に相当するのは、東側を走る県道251号線、パイプライン通りである。その名の通り、かつては米軍基地へのジェット燃料輸送のためにパイプラインが通っていた。元々、車などの走行を想定していない道路なので、歴史めぐりをするなら徒歩で行くのがよい。

浦添は那覇のベッドタウンという雰囲気だが、しっかり“基地の街”でもある。沖縄に何度も通っていても余所者には掴みどころがわかりにくい街だが、屋冨祖交差点のあたりが繁華街である。

宜野湾くらいまで来ると、釣りスポットやジョギングコースなどが満載。海っぽい雰囲気になってくる。そんなことを思う平日の昼間。沖縄に住むんだったら、こういう所まで散歩して来れるような場所がいいな。

ユニオンで買ってランチ。沖縄のカツ丼は、本土のものより具が豪華。店によるが、人参、ピーマン、玉ねぎなど野菜が沢山入っている。奥にあるアイスティーは、実際に那覇にある食堂をモデルとしているらしい。私の行きつけの食堂もそうだが、沖縄の食堂ではアイスティーが飲み放題になっていることが多い。

沖縄の食堂は本土の食堂とは色々な面で異なる。大抵、Aランチ、Bランチ、Cランチというメニューがあるが、Aが一番豪華。ランチとあるが実際はいつでも注文できる。なんとかチャンプルーとか、沖縄そばなど沖縄系の食事は大抵扱っているが、個人的には食堂ではラーメンは頼まない方がいいと思う。・・・インスタントラーメンの場合があるので。

アラハビーチ。米軍基地がすぐそばにあるので、アメリカ人も多く、金髪の女性がランニングしていたりする。那覇の国際通りなんかより、ずっと国際的だ。米ドルで買い物ができる店もある。遠くに見える観覧車や高層ホテルなどは、北谷町の美浜タウンリゾート・アメリカンビレッジ。地元の人と観光客で半々くらい。いつも賑わっていて、明るい雰囲気。

外人が多いエリアであることは触れたが、外人専用のバーや飲食店も多い。「ここは日本なんだから、日本人お断りなんて有り得ない、俺様が絶対許さん!」などと粋がっても、ホントにガタイのいい外人ばかりで、雰囲気的に絶対入れないような店もある。噂では、金髪ダンサーが躍るストリップ劇場もあるとかないとか。

昨日100Km走って、空港からここまで20Kmくらい。疲れたので、自転車を降りて少し休憩する。物思いにふける。

右膝の痛みが気になる。膝を伸ばしたり曲げたりすると、激痛というほどではないが、にぶい痛みが走る。靭帯を損傷すると自転車なんてまともに乗れなくなる。自転車どころか、歩行すらままならなくなり、日常生活にも支障が出る。

同じ場所を5年くらい前にも損傷したことがある。寒い冬の日の朝方だった。栃木県宇都宮市からの帰りで、はじめは小さな痛みだったが、気にせず走り続けていたら激痛となった。自転車を放棄して電車で帰ればよかったのだが、無理して乗ってしまった。そして、階段の上り下りがまともにできない状態が1か月も続いた。

新潟や東北、北海道を走って、今は沖縄にいる。自転車を辞めるべきか。自転車を辞めて、人間も辞める・・・が正解だ。

私は普段、煙草を吸わない。吸わないどころか、かなりの嫌煙家だ。自宅近くのコンビニに灰皿が設置されているせいで、自宅近くまで煙草の煙が漂ってくるから、なんとかしろ! と軽く苦情を入れたこともある。体に悪いことを承知で、高い金を出して煙草を吸っている人を理解できない。煙草を吸っている人を「ダメな人」と決めつけてしまう時すらある。

そんな私が、なぜか煙草を吸いたくなった。「ダメな人」になってしまおうと思ったからだ。近くのイオンで煙草とライターを買う。20歳くらいの頃に煙草を吸っていた時期が少しある。その頃は1箱250円くらいだったと思うが、今は410円もする。自販機ではタスポというカードがないと買えない。ライターはCR、チャイルドロックという子供のいたずらを防ぐ構造になっていて、相当な力を加えないと着火できないようになっている。最初、このライター固くておかしいんじゃないの? と思った。煙草のパッケージには「ガンになりますよ」的な警告文が昔よりデカデカと書かれている。

煙草を数本吸ってみる。美味しいとも何とも思わないが、舌先がヒリヒリする。喉が痛い。そして、激しい頭痛が襲う・・・。体がダルい。やはり、煙草は人体に有害だったのだ。ふんだりけったり。

その2に続く

Fourth Stage 沖縄本島編

1日目 その2 前途多難、へこみ旅

沖縄到着前に千葉県でパンクとは・・・。旅の前途多難を予想させる出来事であった。

世の中には、うまく行くはずなのに思ったように行かないことが案外多い。思ったように行かないのは、辛い。パンク修理にしてもそうだ。パンク修理は自転車メンテナンスの基本中の基本だ。しかも、自分の自転車で、自分でやったことが何度もあるのに、うまく行かない。なぜだ・・・。苛立ちが募る。

というようなことを考えながら、自転車を押して歩くこと数十分、隣の駅近くにあるイオンに到着。首都圏とは思えないほどの広い駐車場は、やはり北海道の街並みを彷彿とさせる。このあたりは何かのアンケートで、「住みたい街第一位」に選ばれたこともあるらしい。北海道みたいな自然と隣り合わせの新しい街に住んで、都心まで電車一本で通勤できることが理由だろう。

休日だというのに駐車場の端の方は車が一台も停まっておらず、同じように端の方にある駐輪場も自転車が一台もない。やはり、北海道みたいだ。余裕がありすぎる。

駐輪場を借りて自転車修理を再開する。建物の影で強風も防げて、さっきよりも落ち着いて修理ができる。そして、初心に帰ってチューブの袋の説明書きを読んでみる。

なになに・・・今までまともに読んだことがなかったが、手順があるようだ。そもそも、やはり車輪は一旦外さないとダメみたいで、ほぼ説明書き通りにやってみる。

一番、根本を間違っていたのは、「チューブをタイヤに入れてからリムに装着」しないとならないという部分だ。言葉だとわかりにくいが、リムに巻き込んでからチューブに入れようとするのは間違いで、今までこれで出来ていたのが不思議な感じ。15分くらいで修理完了。

急がば回れ、急いては事を仕損じる。今回の諺だ。

すでに、もう3日分くらい疲れたので、イオンで少し休む。普段飲まないが栄養ドリンクなどを買ってみる。安いやつも高いやつもそんなに変わらないらしいので、一番安いやつにする。時間は午後7時を回った。成田空港に着くまでは安心できないから、走行を再開して遅れを取り戻す。

北総線沿いの整備された道路を東に進むと、T字路に差し掛かる。国道464号線をずっと行っても良いのだが、松虫姫公園のあたりで北上する。前回も無意識的にそうしたのだが、「なんとなく」北上して「なんとなく」交差点を数回曲がると、また国道464号線に戻る。こうするとショートカットになる。

日曜日の夜だからか、車が前回より多い。国道と言ってもこのあたりは狭い道が続いていて、車が沢山通ると危ない。だが、街灯があったりなかったりなので、自転車のライトだけでは心細い。車が照らしてくれた方が轢かれる可能性はあるものの、視覚的には安全だったりする。

とあるサイクリングの本では、このあたりを「神社などが沢山あって風情ある道」などと紹介していた。夜だから全然わからないが、神社のようなものが沢山ある気がする。

そして、その危険極まりない「風情ある道」を抜けると成田市街へ到着する。全国的や世界的には成田というと「成田空港」が有名だろうが、こうして見ると神社が沢山ある街という気がする。初詣で有名な神社も成田にはある。そもそも、成田市はそんなに規模の大きい街じゃないのに、鉄道路線が複数あるのは、それら神社のおかげでもある。京成本線は神社目的の客を運ぶために作られたとか。

成田空港は以前も書いたが、24時間は開いていない。ただいまの時刻は午後9時。いま行っても朝6時まで待機できない。どこかで時間を潰さないと・・・。成田市内の公津の杜という駅の近くにあるイトーヨーカドーへ行く。沖縄にはイトーヨーカードーもセブンイレブンもないので、この旅、最初で最後のイトーヨーカドーだ。

だが、最初で最後のイトーヨーカドーは午後9時で閉まってしまった。はっきり言って、千葉県のことはよくわからないが、この辺になると東京のベッドタウンというほどではないのだろう。意外に閉店が早い。

近くのスーパー銭湯、華の湯に行く。通常は800円だがWebクーポンを使用すると700円になる。一応、温泉らしきものがあったが、やはり首都圏のスーパー銭湯は地方に比べて高い。

日曜の夜だから、かなり混みあっていた。イトーヨーカドーや近辺の街中には人が全然いなかったが、ここだけは混んでいた。中高年と20歳前後くらいの若い男性が多い。

お湯から上がって併設の食堂に向かう。ここで食べるつもりはなかったが、どっちみち時間を潰さないとならなかった。スーパー銭湯の食堂で食べるのは初めてだが、どんなものか。

カキフライ定食にした。スーパーの半額になったカキフライならよく食べるが、きちんとした店(?)の揚げたてのカキフライを初めて食べる。他の店と比較できないが、スーパーの半額のものよりは、すごく美味しい。

隣席のテーブルの下にエンジ色の水筒がある。誰かの忘れ物かな。しばらくして、コードレス電話を片手に持った40歳くらいの男性店員が探しに来る。「いま見てるんですけど、それらしいものはないですねー・・・」。声をかけようか迷ったがタイミングを逃す。さらにしばらくして、別の50歳くらいの女性店員が探しにくる。声をかける。やっぱり、お客さんの忘れ物だったらしい。

人は、色々なものを忘れる。

午前0時半頃、スーパー銭湯を出る。外はものすごい寒い。持っている服を全部着るが寒い。特に下半身が寒い。沖縄ではどうせ使わないからと、ウインドブレーカーのズボンは持ってこなかった。一日の中で最も寒いのは朝方だ。これからさらに気温は下がる。空港が開く午前3時半まで、どこか屋内で過ごさないと死んでしまう。せっかくだから、成田の街中に行ってみようか。成田なんて滅多に来ないしな。

首都圏に住んでいる人でも、普段、成田市に遊びに行くという人はあまりいない。少なくとも、埼玉県民にはそんな人はいない。成田駅から北東方向に成田空港があり、北西にはイオンなどロードサイド型店舗が集まったエリアがある。そこにラーメン屋の山岡屋があるというので、行ってみる。

うーん、自転車をこぐと凄く寒い。真夏の北海道の峠の下りみたいだ。寒いので押して歩く。なんだか、右足の膝の靭帯が痛む。気のせいならいいが・・・。

山岡家に到着。24時間営業なので、深夜の長距離トラックの運転手やタクシードライバー、夜行性の人などに人気があるのだろう。前にも別の店舗に行ったことがあるので、味については安心できる。

山岡家は札幌に本部があるらしい。北海道にいる時は山岡屋を全く知らなかったが、一応、北海道にも札幌に数店舗、帯広、釧路など主要都市に1店舗ずつくらいあるらしい。でも、関東の国道沿いの方がよく見かける。太麺に濃いめの豚骨系スープ、値段にしては豪華に具など、全体としては好感が持てる。いわゆる北海道ラーメンではないが、基本的には美味しいラーメンだと思う。

こういうラーメン屋にはよくあるのかもしれないが、漫画喫茶並に沢山漫画がある。私は普段は漫画を読まないが、時間を潰すために頭文字Dの漫画を読んで見る。実写版とアニメ版しか見たことがないので、初めて原作を見た。ほんとに「ガァガァガァー」とか「ギャャァー」とか、文字で走行音を表現しているんだなぁと思った。アニメ版と原作は一部省略しているがセリフが大体同じだった。

午前2時40分、店を出る。成田空港へゆっくり向かう。この時間だと、さすがに道路も空いている。国際空港の周りだから、昼夜問わず人が動いているのかと想像するのは間違いだ。なぜなら、成田空港は夜間は「眠っている」。

3時40分、検問所で身分チェックを受けてから空港に到着する。どこの空港もそうだと思うが、成田空港に自転車で来る人は少数派だ。多分、1万人に1人もいない。

自転車で成田空港に来たのは2回目だが、どこを通ったら第2ターミナルなのかよくわからなくて、右往左往する。目の前にターミナルの建物はあるが、駐車場の建物とか立体交差とかで、スンナリたどり着けない・・・。結局、かなり戻って車道の案内を頼りに進んでいく。4時にターミナル到着。

輪行の準備をして自転車を預ける。前回同様、ジェットスター利用。そういえば、少し前までは成田-那覇線や成田-札幌線には、ジェットスター以外にもエアアジアというLCCがあった。エアアジアはジェットスターとの競争に敗れ、日本の国内路線から完全撤退したのだ(記事執筆時)。

エアアジアも利用したことがあるが、機内やサービス、値段はジェットスターとほとんど変わらない。何が悪かったのか。

個人的には「エアアジア」という名前だと思う。日本は「アジア」の一国に過ぎないが、アジアというと貧相なイメージがあって、欧米的な響きのジェットスターを選ぶ人が多かったのではないか。客室乗務員のセクシーな服装やメイクには好みが分かれるところだが、自分はそんなに嫌いではなかった。

エアアジアが撤退したことで、ジェットスター派にも悪影響が出ている。競争相手がいなくなったから、値段が高くなったり、以前より予約がしづらくなった。LCCで言えば、ジェットスターは独占状態だ。東京-那覇線で言えば、あとはスカイマークがいるくらい。

スカイマークと言えば、2012年頃に那覇~宮古島までの路線を開設した。安い日は片道2000円くらいで売り出していた。私もその頃に宮古島に行ったのだが、おそらくスカイマークの宮古島路線のせいで、当時、沖縄の離島で一番人気だった石垣島では観光バブルが弾けた。宮古島は観光客だらけになったが、離島にとって、格安航空会社というのは運命を分ける重大要素なのだ。

ジェットスターの超狭い機内では、自分しか座っていない3人掛けシートの窓際が確保できた。沖縄までの3時間はゆっくり休んでいけそうだ。