サイクリング

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

10日目 長野のライダー

ホテルでぐっすり休んでから、7時過ぎに出発する。ロビーは作業服姿の工事関係の人が沢山いて、現場事務所のようだった。

玄関前には荷物満載のツーリングライダーのバイクが停められていた。40歳くらいの中肉中背の色白男性のバイクで、ホテルの送迎バス運転手のおじさんと「今日は摩周湖の周りを走るんです」などと、ノホホンと話している。

釧路まで70Kmくらいだから昼過ぎには着けるかな、と思った。そして、摩周温泉も悪くないな、機会があったらまた来てみたいな、と思いつつ自転車を走らせる。

鉄道だと釧路の先に根室がある。そもそも、自転車でこのへんを走ることは人生で2回目とはいえ、そう頻繁にあることではない。釧路の先に根室があるという先入観が邪魔して、『根室の標識に従って走れば、必然的に釧路に辿り着く』という間違った考えを生んだ。

たぶん、どこかに分岐点があって、釧路方面と別海経由の根室方面に向かう道路が分かれたのだろう。道路標識から釧路の表示が消えてずいぶん経ってから、道を間違っていることに気づいた。

本来なら国道391号線に進まないとならないところを国道243号線を突っ切ってしまった。去年、こんなホルスタインばかりいる道は通らなかったような気もしたが、やっぱり違う道だった。本来の391号線に戻れる道路があったので、そこを進む。アップダウンの多い道だったので、かなり体力を消耗した。

勉強になったのは、別海の読み方はべつかいでもべっかいでも、どっちでもいいらしい。

途中、道でホクレンの旗を拾う。

これはホクレンのガソリンスタンドで売っているらしく、ツーリングのライダーが記念に買っていって、バイクの後ろに挿して走ったりする。落としても気づかず、ツーリングの時期は道に落ちていることが多い。緑は道東とか、地域によって色が違うらしい。

ホクレンは正式名称をホクレン農業協同組合連合会という。農協の一種のようなものだが、ホクレンは全農の下部組織ではない。札幌駅前の一等地に大きな本部ビルがあり、東京、大阪、名古屋、福岡などにも事務所を構える超巨大組織だ。その事業は農業関係に留まらず、ガソリンスタンド、コンピュータシステム開発、建築、運送など、ほぼ『ゆりかごから墓場まで』。

昼過ぎには釧路市内に着けると思ったが、遠回りしたせいで12時頃にやっと茅沼駅近くのシラルトロ湖キャンプ場に到着。走りながらプランを考えたが、有料だが1泊300円台と安いし、とりあえず2泊分払ってテントを張らして貰い、釧路地区探索のベースキャンプにしようと思った。

受付を済ましてテントを張っていると、正体不明の40代くらいの男性に声をかけられる。

Unknown「コンニチワンコ」

こちらの様子を見てくる男性。最初、このキャンプ場の管理担当者が説明に来たのかと思ったが、フルフェイスヘルメットやライダー用のスーツを着ている風貌から察するに、この人も今日ここに泊まるのだろう。わざわざ挨拶に来るなんて律儀な人だ。

「あなたも今日ここに泊まられるんですか?」
「いやいや。あんたは、こんなところに泊まるの? 湿っぽいしさぁ、熊が出そうじゃん」
「私は北海道で生まれ育った人間ですが、JRの駅がすぐ近くにあるし、そこでおばさんたちがパークゴルフをやっています。こんな人が沢山いる所には熊なんて出ないと思いますよ」
「ふーん。あれ、君はチャリダーさん?」

私はチャリダーと言われるのが嫌いだ。サイクリストと言って頂きたい。語源を調べればわかることだが、チャリというのは子供のスリのことを指す。

「まぁ地元ですし、どうなんでしょうね」
「俺は長野から来たんだ。北海道ツーリングは2回目なんだけど、テントは持ってるけど、ずっとライダーハウスかホテルに泊まってるよ」
「テント持ってきたのに使わないんですか?」
「だって、こんなところに寝るの寂しいじゃん」
「でも、人の多いキャンプ場ってうるさくて眠れなかったりするから、私は寂しい所の方がむしろ好きですけどね」
「ふーん。俺は無理。やっぱ釧路のホテルに泊まるわ」

と、言い残して彼はホテルに向かった。

「軟弱だから俺は釧路のホテルに泊まる」と言い残してキャンプ場を去っていくライダー。

そんなことをいちいち言いに来るような人も、広い世の中にはいるのだと思った。

なんか、道外から北海道にツーリングに来ているライダーって、しょうもない人間ばかりのように思えてならなかった。私はバイクの免許を持っていないから、バイクを運転できる人をすごいと思っていたし、メカにも強くて、ロマンとか何かしらの哲学を持って行動している、孤高な人達だと勘違いしていた。

しかし、実際には茨城のライダーといい、この長野のライダーといい、尊敬に値するような人達ではなかった。

この件があってからは、私はライダー全般に対して悪い印象を持つようになった。エンジンの爆音で動物が逃げるし、空気が汚れる。40くらいにもなった大の男が寂しくて1人ではキャンプ場にも泊まれないとほざいている。長野に帰って、おやきでも食ってなさいと思った。私はこれ以降、ライダーのことをゲイダーと呼ぶことにした。

気を取り直して、私は私で、釧路の街に向かう。まだ寝るには早いし、あくまでベースキャンプを設営しただけである。盗まれたりしてもいいような、そう重要でない荷物はテントに置いていく。街のコインロッカーに預けるより安い。

釧路に向けて走る。しかし、さっきのライダーのことを考えるとイライラする。なぜ、あんなライダーに心が乱されるのか?

釧路の街までは小さな峠を2つくらい越えていかなければならない。アップダウンが激しい。荷物をほとんど積んでいない、クロスバイクに乗った地元と思われる若いサイクリストにあっけなく登りで抜かれる。速えぇ・・・バッカじゃねえの。峠の登りをあんなに速く走れるなんて、すげえよ。尊敬のまなざしで見送る。私の分まで頑張ってくれ・・・。

釧路市内に入る。まだ日が沈むまでは時間があるし、最悪、キャンプ場まで戻れなくても、適当に街で夜を明かせば良いと思った。少し遠いが、釧路市動物園に行くことにした。動物園は街の北西の方にある。しかし、今は15時30分頃で、16時までに入場しないとならない。まだ10キロくらいある。

したがって、ぶっ飛ばさなければ間に合わなかった。

テントを積んでいないので高速走行しやすく、15時59分に到着。ぎりぎりで入場する。

しかし、この釧路市動物園はなまら広い。北海道内ではマイナーな動物園だが、贅沢なほどの広さを誇っている。爬虫類とかの動物の種類ごとにゾーンが別れているが、ゾーンを移動する時に軽い登山道みたいな所を通ったりする。動物の種類も多く、30分で見て周るのは正直厳しい。ゆっくり周れば半日くらいは過ごせるくらいの規模がある。

したがって、1種類の動物を見れる時間は4秒と見積もった。








見る時間がないので主要な動物の写真だけパッパッと撮って、早足で周って、あとでゆっくり写真を見て楽しむ作戦にした。しかし、シャッターチャンスを狙う時間がないので、完璧な撮影とはいかないけど、これはこれでいいだろう。

16時29分に退園。

ふぅー。疲れた。まじで疲れた。もうエクストリーム動物園という感じで、動物園を出てからたっぷり30分は休憩した。教訓。なるべく動物園は時間があるときに、ゆっくり来たほうがいい。

また来た道を戻ると考えるとゲンナリする。そこに釧路市街まで続いていると思われるサイクリングロードを発見。なんだよ、来るときは普通に道路を通ってきたが、隣接してこんな素敵なものがあったとは・・・。

このサイクリングロードは、釧路阿寒自転車道「湿原の夢ロード」と言うらしい。

釧路は北海道では札幌、旭川、函館に次いで4番目に大きな街だが、道都の札幌から遠いこともあって、上位3つの都市より相当寂れている感がある。私は情緒があって釧路が好きなのだが、もし釧路に住むことになっても、どうやって生活の糧を稼いだらよいか、北海道の他の都市以上に想像ができない。こんな素敵なサイクリングロードがあっても利用者は少なくて、釧路の街に着くまで、たった1台しか自転車とすれ違わなかった。

釧路に着いてからはインデアンでカレーを食べた。みよしののカレーなんかとは比較にならないくらい美味しい。

釧路中心部では、くしろ川リバーサイドフェスタ2014というイベントを開催中。

「君は~♪」

10年以上前にラジオで流れていたような歌謡曲。しかし、音程が凄まじい。市民参加のカラオケ大会のようなものが行われていて、街中に凄まじい音量で、お世辞にも上手くはない歌声が響いていた。札幌にも東京にも大阪にも、どこに行くにも遠いという、この釧路ならではの風情を感じる。

MOOにある港の屋台という居酒屋の集まりみたいな場所に行き、以前から気になっていた釧路ラーメンを頼む。40歳代くらいの綺麗な女性が「醤油ラーメンでいい?」と聞き返す。釧路ラーメンにも醤油、味噌、塩とあるらしいが、青森のラーメンみたいのを想像していたので、醤油にする。600円だったかな。

居酒屋なので当然お酒も勧められるが、そんな気分ではなかったので「お冷でいいです」と言うと「あはは」と美人ママ。

釧路のシンボル、幣舞橋の夜景。綺麗な月夜だった。もうテントに戻る気力がなくて、近くのパコで日帰り入浴。仮眠して夜明けを待つことにした。

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

9日目 網走発、摩周温泉で一休み

朝の網走湖。キャンプの醍醐味の一つが、その場所だけの朝の景色を楽しめることだろう。

壁で囲まれた狭い部屋ではなく、テントのファスナーを開けた瞬間からネイチャーライフが堪能できるのがキャンプの醍醐味だ。

好き好んで都会に住んでいるのかどうかは人それぞれだろうが、一般的に都会人はこうした醍醐味を求めるので、ロケーションの良いキャンプ場に人が集まる傾向にある。こういう北海道とかのキャンプ場の場合、施設の優劣とか、都会からアクセスしやすいとかは全く関係ない。

網走駅で記念撮影。釧路方面に行く普通、快速列車と、札幌に行き来する特急が停まる駅。駅名の看板が縦書きなのは意味があって、網走刑務所から出所した人達が『横道にそれない』ことを願う思いから縦書きなのだとか。日本のほとんどの駅名看板は横書きなので、日本は横道にそれやすいとも言えるだろう。

朝日に輝くコスモス。網走の街はこじんまりとしているが、北海道の地方では珍しく、あまり寂れている感じはそれほどしない。北海道に来たことがない人でも、流氷とか網走刑務所のおかげで網走の知名度は高い。

この日、たまたま網走は縁日であった。北海道は9月~10月くらいにかけて縁日が多い気がする。短い夏が終わって、そろそろ冬支度という頃だ。

オホーツク海に最も近い駅として知られる北浜駅。映画の撮影か何かで有名になった。無人駅。

北浜駅の内壁には、この駅を訪れたサラリーマン達の名刺が沢山貼り付けられている。面白いのは、東京メトロやJR西日本みたいな有名企業に勤めている人を除けば、地方のしがない企業に勤めている課長など中間管理職の名刺が多いことだろう。会社の慰安旅行とかでここに来て、雰囲気で張っていくのだ。

プライベートの旅行で、こんな辺鄙な場所に自分の意思でわざわざ来て、勤めている会社の名刺を張っていくという理解しがたい人も中にはいるのかもしれないが・・・。大抵は、会社の行事で連れて来られた人間だろう。あまり見る価値もない。九州地方の市役所の人とかの名刺もあったけど、公務員が公共の駅施設に名刺を勝手に貼り付けてはいけない。最近の傾向としては、何書いているかわからないが、中国語の手記のようなものが多い。

ここは北海道遺産の小清水原生花園という所。植物に興味がある人など知識層の人なら、かなり楽しめる場所だ。常日頃、東京ディズニーランドに行きたがっているようなミーハーな人には楽しめないから注意。

馬は普通に横になって眠る。牧歌的な風景だ。

小清水町を経由し、摩周温泉のある弟子屈町に向かう。このへんは、じゃがいも街道というらしい。じゃがいもというと十勝のイメージだが、この一帯はじゃがいも畑が多い。じゃがいもを満載したトラックが走っていたりする。

屈斜路湖の東側の野上峠を目指す。326mと比較的低い峠だが、結構な急勾配で美幌峠よりきついと思った。

頂上で小休止していると、サイクリストのおじいさんが通り過ぎていった。観光地化されておらず、展望台など娯楽は一切ない。

摩周温泉の少し北の方には川湯温泉という温泉街がある。温泉街の外れにある公園で少し休憩。ここの温泉は入らなかったが、傷口とか目に染みるタイプの温泉らしい。

平屋の古い団地のような建物があったりしたが、どんな人達が住んでいるのだろうと思った。違う地域から温泉施設に働きに来ている人とかだろうか。

道東屈指の立派な摩周・道の駅。ライダーや一般観光客が集結する。

弟子屈町は人口7,000人程度だが、国定公園や温泉など観光資源に恵まれているので、その何倍もの観光客がどこからともなくやってくる。

ちなみに、道の駅は基本的に税金で建物を作り、内部のテナントは民間経営だ。普通の民間ショップでは考えられないくらい豪華な建物のことが多いのは、税金が投入されているからである。

ついでに言うと、北海道経済の10%以上は公務員による経済である。国土の狭い日本を救済するべく、北海道開発法という法律を盾に“日本人”が開発した場所が北海道だ。

摩周温泉の飲食店街。

この地域には昔、弟子屈飛行場があったが廃止されて最寄の空港は中標津空港になる。それでも、札幌への直通列車がないので、むしろ東京の方が近いような印象だ。内地からの移住者が多いという。

今回宿泊したホテルニュー子宝。素泊まりで3500円くらい。これぞ温泉という熱い温泉が楽しめる。観光客というよりは、周辺で道路工事などをしている作業員の方が多かったように思う。部屋は和室。4人くらい泊まれる部屋なので、1人だと広くて快適。部屋にもユニットバス・トイレがあるので便利。やっぱ、建物の中で布団で眠れるのは良いことだ。

Fifth Stage ひがし北海道 ホタテフライ夢ロード編

8日目 広島の家出おじさんと茨城のゲイライダー


便所に近い場所にテントを張ったため、テントの片付け作業をしていると、色々な人が通りかかる。10組くらいいるキャンパーのうち、バイクが半分、残り半分が車という構成で、自転車は私だけだった。

「自転車で周ってるの?」

便所から出て来た50代くらいの北海道農村部によくいるような風貌のおじさんに声を掛けられる。

「はい、でもこのへんが地元なんです」
「本州から来たんじゃないの?」

おじさんの頭の中では、北海道を自転車旅行しているような人は、みんな北海道に憧れてきた内地人なのだろう。見たところ、おじさんは軽ワゴンで寝泊りしている車中泊キャンパーっぽかった。

この頃の私は、連日のアウトドア生活で少々ストレスが溜まっており、ブチ切れ寸前だった。紋別でのキャンピングカー老夫婦の件もあって、アウトドアであってもアウトドアではないような、そしてなんと言っても、自転車旅行者を下に見ているように感じられる車中泊キャンパーに対しては、全く良い印象を持っていなかった。

「僕は広島から来たんだけど、もう3ヶ月も北海道を周っているよ」
「それは羨ましいですねー」

また思ってもいないようなことを言ってしまう。社会人生活が長くなると、社交辞令だけがうまくなって、本心で物を言えなくなってしまう。

だが、この手のおじさんは、こちらから何かを学ぼうとかの目的ではなく、からかい半分で話しかけているだけだ。適当に持ち上げてさえおけば不快な思いをあまりせずに、短時間でサクっと消えてくれるだろう。

このキャンプ場は規則があってないようなものだが、厳しいキャンプ場は車中泊を禁止している。純粋にアウトドア生活をしたいという人達が迷惑するからだ。キャンプ場には普通のキャンプ場とオートキャンプ場というものがあって、車の人はオートキャンプ場に行ってくれ、というのが今のキャンプ界の流れである。北海道も例外ではない。捻くれていた私は、おじさんに車中泊ができなさそうなキャンプ場を紹介しておく。

「この間泊まったんですが、遠軽という街を知っていますか?」
「海の方だっけ?」
「いいえ、山の中ですが、この地域では比較的大きな街ですよ」
「マウイとかがあるところかね?」
「そこも合併して遠軽町だけど、地元では遠軽と言えば旧遠軽町内を指すんですよ。遠軽のキャンプ場は無料だし誰もいなくて、とても快適でしたよ」
「北海道は無料のキャンプがそこらじゅうにあるしね。・・・まぁ、頑張ってね」

なんで、こんな地元の広島に居場所がないとかの理由で、こんな日本の端っこの北海道を3ヶ月も車でブラブラしているだけのおじさんに「頑張って」などと言われないとならんのか。なんなんだ、この気色悪い感覚は。おじさんとはそこで別れた。

やはり、この手の車中泊ブラブラおじさんは、北海道を長期間旅することで、現地の文化を学ぶとかの目的があるわけではなく、家出している中学生と同じレベルだと確信した。頼むから、さっさと広島に帰ってくれ。ブラブラおじさんから学ぶことなど何一つない。今後、こういう家出系おじさんの相手をしても時間の無駄なので、キャンプ場や道の駅などでは警戒しようと思った。

ブラブラおじさんが消え去ってから、テントや洗濯物を乾かしたりした。その間に今後の予定を考える。

ここの近所に北きつね牧場がある。子供のころ行ったことがあるようにも思うが、北きつねさんが見たいと思った。何時から始まるのかわからないが、いくら何でも午前7時前ではやっているわけがないだろう。開くまで待つのも時間が勿体ない。先に進むことにした。

近所のセブンイレブンで朝食を買う。この地域では伝統的にホットドッグには砂糖をまぶして食べる。嘘だと思うなら、縁日に出向くか、セブンイレブンで観察してみれば良い。ケチャップではなくて、砂糖を付けてくれと頼む人が大半だ。

「なまらめんこいヨ」
北きつね牧場の看板。生きているうちに、またこの地域に来れるチャンスがあれば、その時こそは絶対に行きたいと思う。さようなら、北きつね牧場・・・。

温根湯を後にし、北見市街へ向かう。

そういえば、ブレーキシューが交換できないままだった。これから釧路方面に向かうにあたって、峠を越えないとならない。後輪のブレーキがまともに使えないのでは釧路に行けないので、北見では何としてもブレーキシューを入手せねば・・・。

温根湯から北見市街に向かうと、まず三輪というロードサイド店が密集した典型的な郊外型商業地域がある。今は北見駅前なんかより、三輪の方がずっと賑やかだ。ホームセンターを覗いてみる。ホーマックにVブレーキ用のものはあったが、値段が高かった。もう一軒の向かいの某ホームセンターに向かうと、同じものがずっと安い値段で売っていた。

ただ、それが私の自転車に使えるかわからなかったので、店員さんに声を掛ける。ところが、たまたま声を掛けた、近くで品出しをしていた20歳くらいの小柄なギャル風女性店員が・・・な、なまらめんこいヨー。本当、なまらめんこかった。

この数日間、視界に入るものと言えば、森と空だけ。キャンプ場で出会う人達も、半分浮浪者みたいな小汚い男ばかり。出会う女性と言えば、夫婦で旅している中高年のおばさんのみ。キャンプツーリングの現場では、こんな都会的でめんこいギャルを見る機会なんて全くないのだ。埼玉を出発して初めてだったと思う。北見は都会で素晴らしい。めんこいギャルが沢山いる。こんな小汚い自転車旅行なんて辞めて、できればずっと北見にいたいと思った。

めんこいギャルが店長らしき男性を呼んできてくれるが、その人もわからず、自転車担当の違う店員さんが来る。「たぶん大丈夫だと思うけど」と微妙な回答をされる。しかし、付けれなかった時に困るので、近くに自転車専門店がないか尋ねると、次の交差点を曲がったところにあるという。個人経営の自転車屋は高くつくと思ったので、『自転車あさひ』がないか尋ねたが、店員さんは自転車あさひを知らなかった。この地域にはないのだろう。

教えて貰った自転車専門店を探してみたが、それらしい店はなかった。そんなときにはイオンだ。自転車あさひどころか、北見にはでかいイオンがあったはず。休日だから整備士もいるはずだ。しかし、イオンに行ってみると、でかいイオンの割りに自転車コーナーはなかった。北見はホームセンターや自転車屋が沢山あるから、あえてこのイオンでは自転車を扱っていないのだろう。

しかし、それは間違いだった。すぐ近くにイオンバイクというイオン系列の自転車専門店があった。

なんでも、北見がイオンバイク進出の北海道1号店らしく、道内では他には札幌にあるだけらしい。早速、ブレーキシューを見て貰う。店員さんによると、Vブレーキ用のものは使えなくて、キャリパーブレーキ専用のものを買わないとならないらしい。いくつか商品があったが、シマノの800円くらいのやつを買う。これで釧路に行けるだろう。

時間は昼ごろだったが、旅に出て1週間くらいが経ち、精神的にも肉体気にも疲れが溜まっていたので、ホテルに泊まりたいと思った。ローソンのWifiを利用して、スマホで検索してみる。最安値が1泊3800円くらいだったが、宿泊者の評価が悪い。「もう少しだけお金を出して全国チェーンのホテルに泊まれば良かった」そんなふうに書いてあるレビューを見ると、さすがに泊まる気が失せる。

そういうネガティブキャンペーンをやってるのかと思うくらい、全国的に有名な大手宿泊予約サイトでは、ボロクソに評価されているホテルが北見には異様に多い。5段階評価で★1つとか★2つのホテルが多い。基本的に値段に対しての満足度だから、格安ホテルでも満足度が高ければもっと評価が高くなるのが通例だし、あまりにも評価の低いホテルは宿泊する人がいなくて閉鎖しそうだが、北見は周りに大きい街もないし、周りの田舎のホテルよりはマシだから、評価とは関係なしに経営が成り立つのだろう。

今後のルートとしては、釧路方面には向かうにしても、今年は網走経由で行きたいと思った。網走まで行けば、網走湖畔に無料のキャンプ場がある。頑張って、そこまで行こうと思った。

北見を出たら釧路に到着するまで、めんこいギャルなんて、もうまず絶対見れないだろう。目に焼き付けたものの、そう思うと、涙が滲みそうなほど悲しかった。

人通りの少ない休日の北見駅前商店街。悲しいかな、北海道で駅前に人がいるのは札幌、旭川、函館、ぎりぎりで帯広の4都市だけである。

前回、気にはなっていたが立ち寄れなかったTOBUに行ってみる。あの池袋とかの東武鉄道とは何の関係もないTOBUだ。ここは実は想像以上に素晴らしい店。イオンを目指しているというよりは、遠軽や美幌のシティを大きくしたような感じで、とにかく惣菜類が素晴らしい。

カツ丼380円。米は7分付き。通常の米が10分精米で、7分付きというのは7割精米していることらしい。白米より栄養価が高い。他に豆腐を買って、旭川から持ち歩いている醤油を使って冷奴にして食べる。

国道39号線を進んで美幌町へと入る。

橋の入り口部分の柱(正式にどう呼ぶのかわからない)に、北きつねの置物を発見。内地だったら、こんなめんこい置物は心無い人にすぐ持っていかれてしまうだろう。

ここは、めまんべつメルヘンの丘というところ。私は聞いたことなかったが、撮影スポットとして有名らしい。この地はかつて女満別町という町名だったが、北見周辺の市町村を一手に引き受ける女満別空港があることから、数年前に大空町という俗っぽい名称に変わったのだった。

今日の宿泊先、網走湖レイクビューホテル。

手を伸ばせば届くくらい網走湖に近い場所にテントを張れる。海も近くて、湖も多い場所で華やかだから、自転車の人はいなかったものの、ツーリングライダーが10数組以上もいる。

近くの網走観光ホテルで日帰り入浴が出来るので、夕日が沈むのを見届けてから、貴重品だけ持って温泉へ行く。その前に、自転車のブレーキシューを交換する。案外、簡単にうまくいった。

網走観光ホテルは泉質も良く、貴重品をフロントで預かってくれたり、スマホの充電もしてくれて、とても親切なホテルだった。ただ、元々ホテル(本物の)に泊まりたい気分だっただけに、日帰り入浴をしてからテントに戻ることを考えると、とてもゲンナリした。

食事だけでもこのホテルでしたいと思ったが、館内図に載っていたテナントのラーメン屋はぶっ潰れており、レストランは閉店後だった。せめて、売店で何か摘める物を・・・と思ったが、このホテルの売店は物価が高かった。缶ビールが350円、日本酒に至っては500円する土産用の高級ワンカップしかなく、全く手が出せない。

網走観光ホテル内。ホテルに泊まりたい思いが高まる。

だが、冷静に考えたら、海の上とか空の上にいるのではなくて、網走駅まで陸続きで約4Kmの地点なのだ。少し自転車を走らせればコンビニくらい見つけられるはず。無理して物価の高いホテルの売店で買う必要はない。そう思って街まで行ってみる。

2Kmくらい走ったところにローソンがあった。駅前まで行けばセイコーマートがあるが、このローソンは豪華でイートインスペースがある。300円くらいの高級カップラーメンを食べ、スマホで旅の情報収集をする。明日のルートを検討し、明日こそはホテルに泊まろう、明日こそホテルに泊まらないと死んでしまうと思い、網走と釧路のほぼ中間にあたる弟子屈町という所の激安温泉ホテルに予約を入れた。22時、テントへ戻る。

すると、風呂に出かける時にはなかったが、私のテントのすぐ隣接したところに、デカいハーレーに乗った二人組みのライダーがテントを張ったようだった。もっと奥の方に行けば、キャンプ場はいくらでも空いているのに、なんでこんな近くに張るのか。しかも、バイク乗り入れ禁止なのに通路にハーレーを停めて、半分通路を塞いでいる。アホか。

つくばナンバーの茨城から来たこのライダー2人組みは、ゲイなのか狭い1つのツーリングテントに入って深夜まで談笑していた。テントは防音性能がないので、基本的なマナーとして、深夜帯の談笑は厳禁である。

しかも、そいつらがテントを張る前にいたはずのティーンエイジャーのライダーは、あまりにもウザったくテントを移動したようだった。